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エレクトロニクスの熱マネジメントとは、電子デバイスおよびシステムの効率的な熱管理に焦点を当てたエンジニアリング分野です。熱伝導、対流伝熱、熱輻射、熱力学の物理特性を用いて、コンポーネントの温度を許容動作範囲内に維持します。適切に温度が制御されない場合には、温度が上昇することでコンポーネントの性能が低下して、一部の部品が故障する可能性があります。また、コンポーネントとパッケージの接続が弱まったり、壊れたりすることもあります。ノートパソコンのファンから排気音が聞こえたり、スマートフォンの背面が熱くなったりするのは、熱マネジメントによるものです。
電子デバイスは、電流が回路や電子部品を流れることで機能します。配線、PCBトレース、接続部、チップパッケージ、およびコンポーネントは、回路に電流が流れるたびに熱を発生させます。熱を効果的に管理できないと、電子デバイスの各領域の温度が上昇し、材料特性が変化します。こうした特性の変化は、抵抗値の上昇、機械的強度の低下、信号の歪みなど、さまざまな問題を引き起こし、最終的には製品性能や使用性の低下につながります。また、材料は加熱されると膨張し、冷却されると収縮するため、コンポーネントに応力がかかり、コンポーネントやシステムの機械的な故障、疲労、早期の劣化につながります。
スマートフォンや電気自動車から、衛星に搭載されたCMOSカメラの冷却まで、熱マネジメントは今日のさまざまなエレクトロニクスの全体的な性能とロバスト性を維持する上で重要な役割を担っています。そのため、選択できるオプションを包括的に理解することが不可欠です。熱マネジメントの適用は製品開発の重要な部分となっており、設計プロセスのあらゆるステップに導入する必要があります。
熱を管理するための具体的な方法を解説しますが、その前に、エンジニアが使用する熱マネジメントツールにおいて、電子システムの規模が非常に重要であることを念頭に置いてください。半導体チップパッケージにおける熱の生成と放散に関しては、プリント回路基板(PCB)とは異なる、さまざまな課題があります。同様に、複数のPCBや電源など、他の熱源を含む筐体には、ラックを利用するアセンブリやデータセンター全体とは異なるソリューションが必要です。熱マネジメントソリューションは、チップレベル、コンポーネントレベル、ボードレベル、システムレベルに分類されます。
もう1つの重要な違いは、受動的な(パッシブ)熱マネジメントと能動的な(アクティブ)熱マネジメントです。電力を使用しないエレクトロニクス冷却アプローチは、パッシブ冷却ソリューションと呼ばれます。アクティブ冷却ソリューションは、対流伝熱流体の速度を上昇させたり、熱力学的または熱電デバイスに電力を供給したりするために、動力(通常は電気)を使用します。パッシブ冷却は、エネルギーを使用せず、可動部品がなく、コスト効率が高いため、一般的に好まれる方法です。デバイスを周囲温度以下まで冷却することができないパッシブ冷却管理スキームを採用する場合や、必要となる熱性能をパッシブシステムで達成できない場合には、設計にアクティブシステムを含める必要があります。
以下に、現在よく採用されている効果的な熱マネジメント手法のリストを示します。これらは、パッシブソリューションとアクティブソリューションに分けられています。
パッシブ熱マネジメント手法
熱界面材料(TIM): コンポーネントの断熱のため、または熱源から熱を遠ざけるために、コンポーネント間やコンポーネント周囲に使用される材料です。ポッティングやカプセル化では、各種のアクリル、エポキシ、シリコン、およびウレタン樹脂を用いて、コンポーネント、アセンブリ、デバイス全体をコーティングまたは完全に囲います。接着剤、ゲル、グリースなど、コンポーネント間に追加される材料タイプにより、要素間の熱伝導率が高くなります。
ヒートスプレッダー: 高温部分から低温の場所または別の熱マネジメントソリューションに熱を伝達する構造です。半導体パッケージ、PCB、またはエレクトロニクスの筐体の形状と材料によって、熱エネルギーを高温部分から遠ざけます。パッケージおよび基板レベルでは、ボールグリッドアレイ、ワイヤ、ビア、接地面が使用されます。筐体内の基板やパワーエレクトロニクスからの熱は、留め具やウェッジロックを介してケースや他の熱マネジメントデバイスに直接伝達されます。
自由対流: 最も一般的で費用対効果の高い冷却メカニズムは、高温物体の周囲空気の自然対流です。浮力によって熱風が上昇するため、高温物体からの熱エネルギーは部品から空気中に移動し、暖かい空気を外に出して冷たい空気を引き入れます。自由対流に利用される最も一般的な流体は空気ですが、より要求の厳しい用途では他の気体や液体が使用されます。
ヒートシンク: 熱源に接続され、熱源オブジェクトから熱伝達によって熱を遠ざけ、流体への対流伝熱を通じて熱を放散させる部品です。ヒートシンクの設計により、対流流体が熱を引き出せる表面積が最大化されます。ヒートシンクは、主にCPU、パワーエレクトロニクスコンポーネント、レーザーなどの熱源に使用されます。
ヒートパイプ: 揮発性物質の相変化を利用して、熱源から熱エネルギーを吸収する部品です。このエネルギーによって、液体は蒸気に変換され、蒸気はヒートパイプに沿って反対側の端まで移動します。そこで凝縮されたあと、高温側に戻る、というサイクルを繰り返します。
赤外線ラジエータ: 大きな金属製の平板で、赤外線放射を使用してこの平板から熱エネルギーを遠ざけます。主に宇宙空間など、対流伝熱や熱伝導を用いてシステムから熱を排出できない用途向けのラジエータなどに使用されます。
アクティブ熱マネジメント手法
強制対流および強制空冷: ファンやブロワーを使用してコンポーネントやヒートシンク上に気流を発生させる電動デバイスです。空気の速度が高いほど、対流伝熱が高まり、物体からより多くの熱が除去されます。
液体冷却: 熱源の上に液体を流すことで、熱を吸収し、熱源から熱を遠ざけて除去する熱マネジメント手法です。一般的に、液体冷却では、強制対流または熱交換器(ラジエータなど)を使用して液体を冷却してから、液体を熱源に戻します。バッテリシステム、電動モータ、電気自動車、高性能コンピュータなどで、液体冷却がよく使用されています。
噴流衝突冷却: 流体を、ノズルを通して熱源に向けて噴流する効率の高い冷却ソリューションです。衝突面での速度、乱流、あるいは蒸発が高いほど、物体から流体への熱エネルギー伝達が大幅に増加します。
噴霧冷却: 噴流衝突冷却に似た手法ですが、流体の噴流ではなく、小さな液滴として噴霧した冷却液を使用します(液滴は、熱源に衝突すると蒸発する)。この位相変換により、対流伝熱よりもはるかに多くのエネルギーが吸収されます。
冷凍サイクル: 蒸気圧縮熱力学サイクルでは、圧縮、凝縮、膨張、相変化を利用して熱源から熱を引き出します。このアプローチは、特に周囲温度がエレクトロニクスの動作温度要件を大幅に上回る場合に有用です。その一例はデータセンターで、冷凍サイクルを使用して自由対流、強制対流、および液体冷却システムの流体を冷却します。
抵抗加熱: ほとんどの熱マネジメント手法は、電子システムまたはコンポーネントからの熱を除去するように設計されています。しかし、極寒の環境で動作するデバイスの場合は、許容動作範囲まで温度を上げるために、抵抗加熱器を設計に含める必要があります。抵抗加熱器は、宇宙分野のエレクトロニクス、一部の車載エレクトロニクス、過酷な環境で動作する各種のIoT向けエレクトロニクスでよく見られます。
熱電冷却: 電気エネルギーを熱エネルギーに変換するためにペルチェ効果を利用する固体素子です。2つの異なる半導体材料に電流を流すと、一方の温度が上昇し、もう一方の温度が低下します。この低い温度側を、冷却が必要な電子コンポーネントに直接取り付けます。
小型のマイクロチップから大規模なデータセンターまで、電子システムを設計するエンジニアは、システムの熱的挙動を調査してから、システムの熱性能条件を満たし、コスト効率が高く、システムの電気要件や機械要件に関連した問題を引き起こさないような熱マネジメントソリューションを選択しなければなりません。
熱マネジメントのための設計は、基本的な製品設計プロセス全体、特にシミュレーション主導の設計プロセスに統合する必要があります。開発チームは、以下の手法を採用することで、目的ごとの特性を理解し、トレードオフを迅速に評価して、ソリューションを最適化できるようになります。
コンポーネントの特性評価
効果的な熱マネジメントソリューションは、システムに実装するコンポーネントの熱特性を理解することから始まります。設計チームは最初に、システムに搭載する電子コンポーネントおよび機械コンポーネントについて、そのジオメトリ、材料特性、熱生成、熱容量、標準動作条件、許容動作温度などの技術情報を収集する必要があります。
これらの値は、サプライヤーから入手するか、あるいは熱特性評価テストを実施して取得する必要があります。電気エンジニアは、熱放散の推定値を得るために、コンポーネントデータシートに記載されている電気的な振る舞いに基づいて回路モデルの解析を実行します。また、シミュレーションを使用して、コンポーネントやインターコネクトの許容される熱ひずみを決定したり、コンポーネントアセンブリの熱的挙動の特性を評価したりできます。
環境評価
設計チームは、電子システムの内部で何が起こっているかを理解したら、次はシステムが動作する環境を理解しなければなりません。
コンシューマー向けエレクトロニクス製品に使用できる熱冷却オプションは、アビオニクスで使用できる熱マネジメントオプションとは根本的に異なります。
たとえば、スマートフォンの過熱を防止するためには、ケースの中に収まるものに制限され、熱を排出できる場所はデバイス周囲の空気中に限定されます。戦闘機の場合は、高圧の冷却された空気を筐体に吹き込む必要があります。あるいは、産業用IoTデバイスの場合は、低い周囲温度、冷却された空気、または冷却水のいずれも使用できないでしょう。こうした用途に最適なソリューションは、オンボードの熱電冷却器です。同様に、特定の業界の規格や規制によって、どの熱マネジメント手法を使用できるかが決まることもあります。
伝熱シミュレーション
多様なオプションが提供され、競合する要件間のトレードオフを実行できるシミュレーションは、熱マネジメントソリューションを開発するための優れたツールとなります。
半導体チップパッケージレベルでは、設計者はカプセル化アプローチ、熱はんだ接合や熱ビアの位置、接地面の厚さについて反復できます。
規模の面でその対極にあるデータセンターのシミュレーションでは、フロア全体に配置されたラック内およびラック周囲の空気の流れを数値流体力学(CFD)でモデル化して最適化できます。
Ansys Icepak®は、コンポーネント、パッケージ、基板、筐体レベルでのエレクトロニクスの冷却専用に設計された優れたCFDソリューションの一例です。Icepakを使用することで、エンジニアは設計を直接インポートし、熱マネジメントソリューションを迅速にモデル化できます。チップレベルでは、2.5Dおよび3D-ICシステムのサインオフソリューションとして、多くのエンジニアがAnsys Redhawk-SC Electrothermal™を活用しています。Redhawk-SC ElectrothermalをIcepakと接続することで、システムを認識したチップ設計が可能になります。
エンジニアが管理しなければならない別の熱源として、エレクトロニクで使用される電磁界によって発生する熱があります。高出力アンテナなどの高周波用途では、電磁波が通過する媒体の損失により、熱が生成されます。Ansys HFSS™などのツールでは、生成された熱の量を予測できます。これを伝熱シミュレーションの境界条件として適用して、電子アセンブリ全体の熱マネジメントを最適化することができます。
同様に、電気モータや電源、さらにはスマートフォン、スマートウォッチ、VRヘッドセットなどのコンシューマー向けエレクトロニクス製品のワイヤレス充電といった低周波用途でも、熱が生成されます。Ansys Maxwell®では、これらの損失をモデル化して、エレクトロニクスの熱マネジメントソリューションをシミュレーションする際に正確な値を得ることができます。
シミュレーションやテストを実行してコンポーネントやアセンブリの設計の特性評価が完了したら、それらをシステムレベルで次数低減モデル(ROM)として表現して、Ansys ModelCenter®などのツールで熱システム全体を調査して最適化できます。その後、エンジニアはトレードオフ分析を行い、複数のユースケースに最適な熱マネジメント手法を決定できます。
冷却方法の選択
内部構成と外部環境を理解し、伝熱シミュレーションを実行してコンポーネントやシステムをモデル化したら、設計チームは適切な冷却方法を選択するための反復プロセスを開始して、さまざまな選択肢を仮想環境で評価できるようになります。
一見無関係と思われる技術進歩が別の分野に大きな影響を及ぼすことがあります。顕著な例としては、近年の人工知能(AI)のブームがあります。大規模言語モデル(LLM)は多数のGPUを使用しているため、大規模なデータセンターで機能する冷却技術の開発という熱マネジメントの問題が発生しています。
デジタルの世界がさらに拡大して成長すると、高出力で高速なエレクトロニクスに対するニーズが、熱マネジメントのイノベーションをさらに推進することが予想されます。この傾向によって、より効率的な冷凍サイクルソリューションが開発され、噴流冷却が最適化され、より効果的な熱電素子や浸漬冷却などの高度な冷却方法に関する研究も進むでしょう。
ハイパフォーマンスコンピューティングによって、それに最適なソリューションの開発は推進されますが、コンポーネントやシステムのさらなる小型化が進むことで、業界は別の方向にも目を向ける必要があります。その新しい研究分野の1つに、サーマルトランジスタがあります。サーマルトランジスタは、必要に応じて熱の流れを制御できることで、チップ全体ではなく、必要な場所だけを冷却できるようになります。
熱マネジメントにおける最も効果的かつインパクトのある改善は、シミュレーションの機能と効率の継続的な向上です。このクラスのソフトウェアでは、これまで以上の計算能力を最大限に活用しながら、AIを組み込み、設計システムへの統合を向上させ、ユーザーの生産性を高めて、さらに多くの物理特性と連成できるようになります。
当社はお客様の質問にお答えし、お客様とお話できることを楽しみにしています。Ansysの営業担当が折り返しご連絡いたします。