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MEMSデバイスとは

微小電気機械システム(MEMS: Microelectromechanical System)は、電子デバイスと機械デバイスを掛け合わせたマイクロメートル単位の部品が搭載されたシステムです。MEMSデバイスでは、電気信号がデバイスに入力され、機械的応答が出力されます(逆の場合は、機械的な入力に対して電気信号が出力される)。ただし、MEMSは、機械構造が実際に可動しない場合でも、機械的な機能を備えている必要があります。このような理由から、高度なエレクトロニクスを搭載していても、一般的には「機械システム」と呼ばれています。

MEMSには、アクチュエータ、マイクロセンサー、片持ち梁、マイクロミラー、膜、小型チャネル、スイッチ、キャビティ、そしてMEMSの脳および制御センターとして機能するマイクロエレクトロニクス集積回路(IC)など、小型化された多数の電子素子や機械構造が搭載されています。通常、シリコン基板を使用してICが形成され、他のマイクロシステムコンポーネントがその上に実装されます

MEMSテクノロジーは、新しい技術ではありませんが、最新テクノロジーで小型化が進み、エレクトロニクスの未来と見なされています。これは、MEMSの製造が表面マイクロマシニング、フォトリソグラフィ、ドライエッチングなど、今日使用されている既存の半導体微細加工技術に基づいているためです。

MEMSは今では広く普及しているテクノロジーですが、商業利用され、広く知られるようになったのは、2006年に任天堂のWiiリモコンに搭載されたMEMSベースの加速度計です。それ以来、MEMSデバイスはさまざまな用途や分野で採用されるようになりました。こうした採用の拡大と市場への浸透により、さまざまな電子特性と機械特性を持つ多くの小型部品およびコンポーネントを統合して組み合わせることで、高性能なミクロンサイズのシステムを構築できるようになり、さまざまなタイプのMEMSデバイスが登場しています。

MEMSデバイスのタイプ

多くのMEMSデバイスは、センシング、作動、または共振機能に使用され、高度な半導体製造技術を活用して、低消費電力で高精度な小型かつ軽量のデバイスとして製造されています。 

大半のMEMSデバイスは、センサーまたはアクチュエータに採用されています。この2つの主な違いは、センサーは非電気信号(たとえば、機械信号)を電気的な出力に変換するのに対し、アクチュエータは電気信号を機械的な動きに変換する点です。

こうしたMEMSコンポーネントの多くはシリコンウェハに実装できますが、現在では、センサーを他の電子信号調整エレクトロニクスと同じ場所に配置して、単なるMEMSセンサーではなく、トランスデューサーに似たシステムを設計できるミクロンサイズのデバイスを利用できるようになりました。

MEMSデバイスは、一般的には容量性MEMS、MEMSジャイロ、圧電MEMS、レーザーベースMEMSの4つのカテゴリに分類されます。しかし、実際にはこれらのカテゴリの1つまたは複数に分類されることが多く、単一のカテゴリのみに分類することは困難です。主なカテゴリは次のとおりです。

  1. 容量性MEMS: 容量性MEMSは導電性が必要となる分野に用いられ、MEMSの内部要素で容量の変化を検出します。 
  2. MEMSジャイロ: MEMSジャイロは、オブジェクトにかかる慣性力を基準に対して比較することで、システムの角速度を測定します。 
  3. 圧電MEMS: 圧電MEMSは、デバイスが機械的な変形を受けた際に、圧電効果(材料格子内の電荷の再分布)を使用して電流を生成します。 
  4. レーザーベースMEMS: レーザーベースMEMSは、出力波長を電磁スペクトルの目的のサイズ/領域に変化させることで、レーザーを調整するために使用されます。音響光学フィルタから光通信や自動車の照明まで、用途に合わせてさまざまなタイプのレーザーを調整するために使用できます。

多くのMEMSセンサーは、機械的応答を電気出力に変換する慣性計測装置(IMU: Inertial Measurement Unit)カテゴリに分類されます。IMUとして、エアバッグの展開、バーチャルリアリティヘッドセット、ドローンのナビゲーション、マッピングシステムに使用されるジャイロスコープや、ビデオゲームコンソール、カメラ、航空機姿勢制御システムに使用される加速度計があります。

一般的なアクチュエータとしては、デジタルライトプロセッシング(DLP)チップ、スピーカー、マイクロポンプ、回転マイクロモータ、ピンセット、プリンタ、マイクロギア、マイクロバルブ、マイクロミラー、スイッチがあります。スイッチは、重要なアクチュエータ分野であり、非常に小型のスイッチの設計を最適化するために、プルイン電圧や、プルイン電圧とリリース電圧間のヒステリシスを理解する必要があります。

もう1つのMEMSベースのセンサーは触覚センサーです。触覚センサーには触覚テープが含まれており、このテープを押すと気泡が発生し、電気信号が送信されます。また、磁気効果や電気活性流体を使用するものもあり、タッチスクリーンや指紋センサーなどに採用されています。その他のMEMSセンサーには、ガスセンサーやひずみセンサーがあります。

MEMS発振器も、重要なデバイスアーキテクチャの1つです。MEMS発振器には、アナログドライバを使用して圧電励振を発生させる共振器が含まれています。MEMS発振器は、1ヘルツ(Hz)から数百メガヘルツ(MHz)の範囲の安定した周波数を発生させます。

高周波(RF)フィルタも基本的なMEMSデバイスであり、現在、MEMSテクノロジーにおける最大の市場の1つです。RFフィルタの機械的な出力により、サイズが小さく、低コストで、広帯域、狭帯域、ローパス、ハイパスフィルタリングなど、さまざまなフィルタリング機能を実行できるフィルタが作成されます。RFフィルタ分野では、MEMSを使用して表面音響波(SAW)フィルタとバルク音響波(BAW)フィルタのどちらも作成できます。

MEMSアプリケーションの多様性

さまざまな種類のMEMSデバイスが存在するため、自動車、航空宇宙、防衛、ヘルスケアなど、さまざまな用途や業界で広く採用され、重要な役割を担っています。MEMSセンサーは、音響、流体流れ、温度、圧力、半導体製造装置の真空レベル、慣性効果、磁場、化学物質、放射など、数多くの業界で刺激を検出するために使用されています。

MEMSセンサーデバイスの一般的な例としては、赤外線検出器、磁気探知機、温度センサー、圧力センサーなどがあります。MEMS加速度計、ジャイロスコープ、その他の慣性センサーは、あらゆるものが高速で移動し、センシング操作に最高の精度が必要とされる航空宇宙分野で広く使用されています。

さらに、MEMSは「バイオMEMS」と呼ばれるサブ分野で医療および健康モニタリングのためのウェアラブル機器や埋め込み可能な医療機器(IMDS)に電力を供給する小型の環境発電用途やその他の小型ポータブルエレクトロニクス製品にも使用できます。ポータブルおよびコンシューマー向けエレクトロニクス製品の分野では、MEMSはスマートフォンに採用されており、RFフィルタやタッチスクリーンディスプレイの触覚センサーとして使用されています。他のRFフィルタ(SAWまたはBAW)は、Wi-Fi、Bluetooth、およびLTE(Long Term Evolution)といったテクノロジーに使用されています。

MEMSは、従来の用途にとどまらず、自動運転車、エアバッグの展開、オートメーションに使用されるセンサー、高解像度プロジェクター用マイクロミラーアレイ、インクジェットプリンターヘッド、マイクロ熱交換器、低損失通信用の光スイッチやフォトニックデバイス、マイクロ流体デバイスなど、多くの専門分野で活用されています。

MEMS設計の要素

MEMSの設計および製造プロセスは、サイズが小さく感度が高いために多くの課題が伴います。また、動きや衝撃の影響を受けやすいため、誤った信号が発生することもあります。さらに、デバイスに追加して考慮する必要がある熱補正やオフアクセス補正もあります。MEMSを設計する際の課題は、MEMSが小さく、ジオメトリが複雑であることですが、機械部品の動きは桁違いに微細になります。そのため、MEMSの構造および運用上の側面をどちらも検討しながら、製造プロセス内に存在するばらつきに対応できる十分にロバストな設計を行うには、高度なシミュレーション機能が必要です。

MEMSデバイスに搭載されるあらゆる要素は、エネルギー損失の指標である感度と品質係数によって決まります。ただし、MEMSデバイスでは非常に高い周波数を考慮しなければなりません(慣性センサーの場合は数百キロヘルツ(KHz)からMHz領域、RFフィルタの場合はギガヘルツ(GHz)領域)。フィルタはステップ関数であるため、予測された変位-電圧の連成場の精度が重要となり、この精度によってフィルタ曲線の勾配(0から無限大)が決まります。効果的なフィルタを得るには急勾配な応答が必要であるため、曲線の急勾配と温度変化に対する感度を正確に評価するための非常に正確なツールが必要です。

MEMSデバイスの設計プロセスで最も重要な要素の1つは、機械コンポーネントのサイズと材料の設計と最適化です。入力を確認し、デバイス内の2点間で信号がどのように伝搬するか、そして結果として得られる出力を確認することで、最適な構造を設計できます。与えられた入力に対して得られた出力が正しくない場合、設計空間は最適ではありません。こうしたすべての要素を高度なシミュレーションソフトウェアを使用して解析することで、高性能なMEMSデバイスを設計できるようになります。

MEMSの設計に利用できるシミュレーションツール

シミュレーションツールは、複雑な設計を構築できる高い精度が必要です。Ansysのツールはピコメーターレベルの解像度を備えているため、MEMSだけでなく、さらに小さなナノテクノロジーレベルのナノ電気機械システム(NEMS: Nanoelectromechanical System)のシミュレーションにも使用できます。NEMSのシミュレーションは、より小さなスケールに合わせて設計にズームインするようなもので、ピコメーターレベルの解像度によってこれが可能になります。

MEMS

互いにかみ合わせた1組の電極間に2.2GHzのAC信号を印加したSAWデバイスの単一セクターに示された構造定在波

Ansysでは、MEMSの性能を設計してシミュレーションするために、DiscoveryとMechanicalの2つのソフトウェアパッケージを提供しています。Ansys Discoveryをプリプロセスに使用し、Ansys Mechanicalをシミュレーションに使用します。Discoveryでは、エッチングプロセスや製造時に測定される重要な寸法に関する事柄など、MEMSの異なるジオメトリやプロセスによって生じる変動を調査できます。Discoveryでは、Mechanicalでシミュレーションを実行する前に、ジオメトリのさまざまなバリエーションのプリプロセスが実行できます。その後、Mechanicalでこれらのジオメトリやその他の機能をウェハスケールシミュレーションでスケーリングできます。より詳細で固有のジオメトリバリエーションを得るには、Mechanicalのさまざまな自動化アプローチを用いて、ジオメトリを表すノードを移動できます。

専用のプリプロセス機能とピコメートル解像度を備えたウェハレベルのシミュレーション手法を使用することで、設計プロセスをスピードアップするだけでなく、設計の正確性を確保し、目的の用途に合わせて高性能なMEMSデバイスを製造するために必要な仕様を満たすことができます。MEMSデバイスの設計プロセスを改善するために、Ansysのシミュレーションツールがどのように役立つかについては、今すぐAnsysのテクニカルチームにお問い合わせください

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