Ansysは、シミュレーションエンジニアリングソフトウェアを学生に無償で提供することで、未来を拓く学生たちの助けとなることを目指しています。
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編集者注: 2024年11月12日、Team Bath Heartが2024 Heart Hackathon Grand Finalに出場し、優勝を果たしました!
心臓病は、米国のほぼすべての人種の死因のトップです。男女差もほとんど見られず、2023年における死因の3分の1を占めています。心臓病には、不整脈、心筋症、冠動脈疾患、心臓弁膜症など、さまざまな種類があります。
心臓疾患が重症化すると、心不全につながり、心不全の末期では心臓移植が必要になることもあります。心臓移植は、米国では3番目に多い移植手術です。2023年には3,451人が新しい心臓を受け取りましたが、4,298人が待機リストに残っており、残念ながら、新しい心臓を待つ人すべてがすぐに移植を受けることができるわけではありません。しかし、現在は別の選択肢があります。それが完全置換型人工心臓(TAH: Total Artificial Heart)です。
TAHの競争とイノベーションを奨励するために、2022年に人口心臓設計の学生コンペであるHeart Hackathonが設立されました。Heart Hackathonは、年間にわたって開催されるコンペで、技術、ビジネス、専門的なスキルを身に付けながら、TAHの研究、設計、および開発の実践的な経験や業界の専門家とつながる機会が学生に提供される場です。第1回の優勝者であるTeam Bath Heartは、2024年大会で連覇を目指しています。
小学生の授業で、心臓が血液を送り出す方法を学んだ方も多いでしょう。酸素が少ない血液は、大静脈を通り、右心房に流れ込み、右心室から肺動脈を通って肺へと送られ、酸素を受け取ります。酸素を取り込んだ血液は、肺静脈を経て心臓に戻り、左心房に入り、左心室に送られ、大動脈から全身に送り出されます。
Team Bath Heart(TBH)
世界各国の規制当局による承認を受けた唯一のTAHであるSynCardiaも仕組みは似ていますが、左右の心室を外部の空圧駆動システムに接続された心室で完全に置き換えたものです。
バース大学のシニア講師兼Team Bath Heartの教員アドバイザーであるKatharine Fraser氏は次のように述べています。「人工心臓は、メカニカルポンプとほぼ同じ仕組みです。」タービン、容積式、空圧式など、さまざまな液体用のポンプがありますが、SynCardia TAHもそうしたポンプの1つです。
Fraser氏は次のように述べています。「チームが目指している、生体心臓をより忠実に再現しているのは、容積式のポンプです。血液に対してより柔らかく優しい長期埋め込み型の容積式ポンプを開発できると考えています。」
血液は繊細な液体です。流れが強すぎると細胞が破壊され、流れが不十分であれば血栓できるリスクが高くなり、どちらも致命的となります。
2022年にHeart Hackathonが発表されたとき、Team Bath Heartはわずか6名の機械工学の学部生で構成されていました。2023年には、さまざまなエンジニアリング分野の学生30名から成るチームに成長し、2022年から開始したプロトタイプ作製とテスト作業に取り組んでいます。そして、第1回Heart Hackathonコンペのフィナーレを飾る2023年の国際補助循環学会(ISMCS: International Society for Mechanical Circulatory Support)のカンファレンスに、このプロトタイプを持ち込み、1位を獲得しました。現在、Team Bath Heartには70人近くの学生が参加しており、この秋に日本で開催されるコンペで連覇を狙います。
Team Bath Heartのテクニカルチームリーダーであり、機械および電気工学を専攻するLucy Bilsborrow氏は次のように述べています。「このコンペでは、新規性が高く評価されます。これが昨年優勝した理由の1つです。私たちは、他のチームや完全置換型人工心臓のどのメーカーも採用していないポンプ機能を設計しました。」
チームが設計した人工心臓は、心室に配置された圧縮性バッグを使用して、全身に血液を送り出します。モータ駆動のメカニズムにより、バッグが収縮し、それぞれの動脈から血液が強制的に送り出されます。
革新的なアイデアを奨励するために、Heart HackathonのTAHの技術的要件は限られています。人工心臓の流量は1分あたり5リットル以上で、体循環と肺循環の両方に供給されることが主な要件です。それ以外の条件、つまりサイズ、材料、動力供給メカニズムはすべて自由です。
Team Bath Heartが想定した患者は、身長175cm(約5フィート9インチ)、体重85kg(187ポンド)の49歳の男性です。それは、高齢で体重が重い男性は心臓移植を必要とする可能性が高いことが大きな理由ですが、TAHを小型化することが最も困難なタスクの1つであることも理由です。
Team Bath Heartのテストリーダーであり、機械工学を専攻するMolly Holmes氏は次のように述べています。「2023年に持ち込んだ設計は非常に大きなものでした。2024年の設計は、サイズを20%小型化しましたが、平均的な体格の女性には、さらにサイズを小さくする必要があります。」
この問題やチームが直面する他の課題に対処するために、シミュレーションを含む、多数のツールを使用しています。
Fraser氏は次のように述べています。「最小限の資金で、短時間で完了しなければならないことがたくさんあります。このような観点から、シミュレーションは非常に役立ちます。プロトタイプを1つずつ作製することなく、さまざまな可能性やアイデアを迅速に探索できるからです。」
Team Bath Heartは、Heart Hackathonから提供されるソリューションに加えて、AnsysアカデミックプログラムやAutodeskエデュケーションプランを通じて、多数のシミュレーションソリューションにアクセスできます。
学長主催のガーテンパーティにて2023年、2024年、2025年の完全置換型人工心臓(TAH)プロトタイプが展示されたTBHのブース。チームリーダーのMansi Ahuja氏(左)とテクニカルリーダーのLucy Lucy Bilsborrow氏(右)。
Holmes氏は次のように述べています。「Heart Hackathonを通じて、Virtonomy社のソリューションにアクセスできます。これは、実際の患者データを使用して内臓器官をインタラクティブに複製できるプログラムです。 独自のCADモデルを取り込み、心臓モデルが他の臓器や構造と干渉する箇所や血管とつながる箇所を可視化できる、非常に興味深いものです。」
Virtonomy社のソリューションを活用することで、TAHが体内でどのように適合するかを可視化できますが、チームは実際に動く心臓を設計する必要があります。
現在、心臓のケーシング材料としてチタンが採用されています。チタンは頑丈で、TAH内部の機構が損傷を受けるのを防止でき、すでに多くの医療機器メーカーによって生体適合性がテストされています。チタンは機能面では問題ありませんが、軽量化を図るために、学習リソースセットであるAnsys Granta EduPackを導入して他のポリマーを検討しています。
Team Bath Heartのシミュレーションリーダーであり、機械工学を専攻するAaron Wong氏は次のように述べています。「ケーシング材料は目標仕様を満たす必要があります。有限要素法解析(FEA)ソルバーにこれらの材料を投入することで、実際にプロトタイプを作製することなく、プロセスを高速化できます。」
さらに、構造有限要素法解析ソフトウェアであるAnsys Mechanicalを使用して、さまざまな応力点、具体的には繰り返し応力を解析しています。TAHは、生体心臓と同様に、患者が生きている限り血液を送り出す必要があります。チームメンバーは、流体シミュレーションソフトウェアであるAnsys Fluentと数値流体力学(CFD)ソフトウェアであるAnsys CFXを使用して、TAHの心臓弁内での血流をシミュレーションしています。時間的な制約により、すでに市場に出回っている心臓弁を利用していますが、各心臓弁のプロファイルをシミュレーションして、TAH設計に最適なものを決定しています。
Wong氏は次のように述べています。「CFXを導入し、ポリマー製の心臓弁の方がせん断応力が少ないことがわかりました。これは、血液損傷の1つである溶血を引き起こす重要な要因であるため、血流でのテストが不可欠となります。」
Autodesk Inventorでの2024年TAHケーシングのレンダリング
チームは、設計反復を通じて、せん断応力、レイノルズ数、流量といった血液損傷パラメータの目標仕様を決定しました。さまざまな血液損傷テストを実行することで、目標仕様を満たすことができます。
Wong氏は次のように述べています。「特にTAHでは、高い速度の血流で乱流は望まれないため、乱流が生じるかのテストを実行します。さらに、数サイクル後にどの程度の血液が保持されているかを示すウォッシュアウト(血液の流れ)もテストします。ウォッシュアウト効果の高さが、より良い流れを表します。また、よどみが発生すると血栓や血栓症を引き起こすため、設計内のよどみ点が少ないことも示されています。」
2024年のTAH設計の壁面せん断応力(左)とウォッシュアウト(右)のシミュレーション
Team Bath Heartが設計したTAHは、ポンプメカニズムだけでなく、動力供給メカニズムも革新的です。人工心臓における最大の問題の1つは電力供給であり、一般的には、胸腔または腹部を通して患者の体内に縫い込まれたケーブルを使用します。感染のリスクが高いだけでなく、多くの患者にとって不快感の大きいものです。さらに、酸素タンクを持ち歩くのと同様に、患者が外部電源を持ち歩く必要があるため、不便さもあります。
Team Bath Heartのメンバーで電気工学を専攻するBen Green氏は次のように述べています。「ワイヤレスで電力を供給し、アンテナを使用して心臓から診断データを転送したいと考えています。」
Green氏は、高周波電磁界シミュレーションソフトウェアであるAnsys HFSSを使用して、皮膚、筋肉、脂肪などのさまざまな身体的特徴がアンテナにどのように影響するかをモデル化しています。
Green氏は次のように述べています。「身体的特徴がアンテナの機能に大きな影響を与えます。既製のアンテナを購入して心臓につなげても機能しません。体組織ごとに電気的特性や磁気的特性が異なり、アンテナの特性とその機能が大幅に変化するため、すべてのアンテナを独自にカスタム設計する必要があります。」
自由空間でのアンテナコイル放射パターン(左)と経皮層の簡易ファントムでのアンテナコイル放射パターン(右)
また、Green氏は、HFSSを使用して、ワイヤレス給電システムの吸収率を解析しています。心臓を動かすには患者体内に高い出力密度を流す必要がありますが、そのエネルギーが身体で吸収され、熱が生成されるリスクがあります。この熱の温度が高くなれば、患者にとって危険です。
Green氏は次のように述べています。「HFSSを使用すると、特定の吸収率を調べることができるため、設計を変更して、身体に吸収されない磁場を最大化し、身体に吸収される電場を最小限に抑えることができます。」
チームは、アカデミックスーパーバイザーの助けを借りて、アンテナが体内に送出できる電力密度に限界があることを把握しています。そのため、すべてのアンテナとワイヤレスシステムをその限界を下回るように設計しており、機能性を維持しながら可能な限り低くすることを目指しています。
ワイヤレス給電コイルの設計(左)と簡易ファントムでのワイヤレス給電コイルの比吸収率プロット(右)
バース大学の特徴は、最大規模の学生チームの研究対象が自動車以外の分野であることです。高校や大学の学生チームの多くは自動車関連分野を研究対象としていますが、Team Bath Heartのメンバーの多くが参加を決めた最大の理由は、このチームの研究分野がヘルスケアである点です。学生やチームのアドバイザーも、チーム内の多様性を高く評価しています。
Fraser氏は次のように述べています。「学生たちは、多様なスキルセットを呼び込むために、より大きく扱われるテーマにしたいと考えていました。しかし、それと同時に、誰もが参加できるようなテーマであることも非常に重要でした。エンジニアリングの各分野に加えて、生物学、心理学、ビジネスを専攻している学生も参加しています。」
バックグラウンドが異なるさまざまなタイプの学生がいるため、Ansys Learning HubとAutodeskエデュケーションプランを通じて、チームはシミュレーションスキルを強化してきました。
Fraser氏は次のように述べています。「詳細なシミュレーションは最終学年で扱います。Team Bath Heartのメンバーの多くは1年生か2年生であるため、Ansys Learning Hubを活用したり、お互いに助け合って、その課題を克服しています。」
また、Ansys社とAutodesk社から提供されるツールが統合されている点を高く評価しています。これはチーム全体でアイデアを迅速に生成して共有することが容易になるからです。
Holmes氏は次のように述べています。「大規模なチームであるため、ファイル共有に関して多くの問題がありました。この点についてAutodesk社に問い合わせたところ、Autodesk Fusionの使用を推奨されました。皆が同じプロジェクトで作業でき、バージョン管理ができるからです。」
Autodesk社は、Team Bath Heartが丸1日をかけてトレーニングを受ける機会を設けました。実際に使用しているすべてのファイルを転送して、Fusionでの設定や実行などの基本的な操作を教えました。
Ansys社とAutodesk社は、今年後半に日本で開催されるHeart Hackathonのフィナーレで2年連続の優勝を目指すTeam Bath Heartを応援しています。
Ansys StudentチームパートナーシップおよびAutodeskエデュケーションプランを通じて学生チームが成果を上げるための方法については、こちらをご覧ください。
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