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Ansys Advantage誌

May 2021

シミュレーションで航空レースの未来を電動化

Ansys Advantage誌スタッフ

 

それは間違いなく世界で最もエキサイティングなモータースポーツであり、100年以上続いていますが、おそらく聞いたことがないでしょう。

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小型の単座電動プロペラ航空機8機が一斉に離陸し、約30フィートの高さまで飛行して、約3マイルの楕円形の周りを翼端が触れ合いそうな距離で、最高速度250mphで競うレースを想像してください。アドレナリンが高まるエキサイティングな状況を感じることができるでしょう。航空レースは、Air Race EventsのCEOであるJeff Zaltman氏によって2013年から世界的に支持されており、そのAir Race 1は2015年から航空レースの世界選手権として、人気が高まり続けています。

自動車のFormula 1といった他の一流のモータースポーツと同様に、航空レースは最先端技術のためのテストベッドとなります。持続可能性の重要性が高まる中で、航空業界における持続可能性のさらなる推進を加速させるために、Formula 1が電気自動車のレースとしてFormula Eシリーズを創設したのと同じように、Zaltman氏は、100%電動である航空機によるAir Race Eを創設しました。AnsysはAir Race Eの公式シミュレーションソフトウェアパートナーであり、参戦するチームにシミュレーションソフトウェア、トレーニング、コンサルティングを提供しています。

Ansysは、バッテリーおよびバッテリーマネジメントシステム、パワーエレクトロニクス、電動モータ、電動パワートレインシステムの機体への全体的な統合など、チームが直面する最も困難なエンジニアリング上の課題に対応するための包括的なマルチフィジックスシミュレーションツールスイートを提供することで、航空機の電動化の最新技術の進歩を支援しています。これは、チームによっては、航空機全体をゼロから設計すること、あるいは電気システムを既存の機体に統合することを意味します。

Ansysのレース参戦の調整を担当するRoberto Bifulco(Ansys、テクニカルアカウントマネージャー)は、次のように述べています。「これらのチームは、信じられないほど短い時間で、アイデアからレースに臨める航空機を開発する必要があります。2021年後半に予定されている最初の予選イベントに間に合うように電動航空機の飛行が認定されるためには、シミュレーションが設計および開発プロセスを加速させる唯一の方法となります。当社のソフトウェアは、この目標を達成するのに役立ちます。また、解決する必要のある問題からも学ぶことができるため、これはWin-Winであり、AnsysがAir Race Eのスポンサーとなることを決めた理由の1つです。」

Air Race E 2021 enigneering simulation and electrification

現在建設中のAir Race E参戦機体とNordic Air Racingチーム画像提供: Nordic Air Racing

 

航空レースは電動の未来を築く

最初の航空レースであるPrix de Lagatinerieは、1909年にフランスで開催されました。これはWright兄弟が1903年にノースカロライナ州キティホークで空気より重い飛行機の初の制御飛行を行ったわずか6年後のことです。それ以来、航空レースはさまざまな形で継続されてきましたが、その多くは、1機ずつ飛行してタイムを競うものでした。

Zaltman氏は、2013年にAir Race 1 World Cupを創設しました。そして、2014年の第1回のレースと2015年の最初のWorld Cup of Air Racingを取り仕切りました。各チームは、小型の単座プロペラ駆動のCassutt Special型航空機で参戦し、レースに勝てるように特定のパラメータ内で機体を改良します。 

Air Race Eでは、各チームが使用しなければならないプラットフォームが規定されています。機体、主翼、重量の要件は、Air Race 1と同じです。内燃エンジンの代わりに電力を使用するため、バッテリーの仕様として、150kW以下の出力(30秒間で追加の25kWブースト容量が利用可能)、最大電圧800Vなどが定められています。4周25km(15.5マイル)のレースでは、バッテリーは5分間フルパワーで動作(最小電力で10分間の蓄電)が可能であることが必要です。目標は、パワートレインの総重量が180kgを超えないようにすることです。

Air Race E Team New Zealandは、この航空機のモデルを1:10スケールで3Dプリントしました。

TeamNLはこのモデルを1:10スケールで3Dプリントした。

 

技術的課題に対する2つのアプローチ

Air Race EのテクニカルプロジェクトマネージャーであるDmitri Karelin氏は、次のように述べています。「勝利する航空機を設計するのはそれほど簡単ではありません。最大の出力を設定するだけで、勝利できるわけではありません。最も強力なモータには、より大きなバッテリーが必要であり、重量が増加しますが、より小型のモータとより小型で軽量のバッテリーを使用する他のチームよりも航空機の速度が落ちる可能性があります。」

このようなトレードオフがあるため、ルール内で数多くの設計バリエーションが可能となり、各チームは異なる方法で課題に取り組むことになります。

2018年のAir Race E創設時、すでに化石燃料を動力とした航空機でAir Race 1に参戦していたいくつかのチームを引き付けることができただけでなく、これまで航空レースに参加したことのない人々の間でも関心が高まりました。これにより、改良型の航空機またはゼロから開発した航空機を使用する、それぞれが異なる課題に直面する2つのタイプのチームに大きく分類されることになりました。

シミュレーションは、新しい設計の実機試験を行うことに慣れている多くのレース参加者にとって新しいものであるため、Ansysは2021年1月にウェビナーを開催し、すべてのチームがアクセスできるシミュレーション機能と、これらの課題のいくつかを克服するためにそれらを使用する方法を紹介しました。アプローチの異なる2つのチームに話を聞き、どのように進歩しているかを確認しました。

改良型の航空機

ノルウェーのNordic Air Racingは、Electric Aircraft PropulsionとEquator Aircraft社という2つの組織からメンバーを呼び集めました。このチームには現在、ボランティアを含む10名のメンバーがいます。Nordic Air RacingチームのエンジニアであるSathvik Rao氏は、次のように述べています。「私たちは電動航空機をより高いレベルで探求したいと考えています。Air Race Eはその機会を与えてくれます。航空レースに参戦することで、多くのことを学び、各チームが直面している共通の問題の解決方法について知識を共有できます。そうした考え方で参加しています。電動航空機はまだ未熟な段階であり、今こそ草の根レベルで育成することが重要です。」

左:バッテリーモジュールを介した空気の分散。右:単一のバッテリーモジュール内での静温度の分布。

左:バッテリーモジュールを介した空気の分散。右:単一のバッテリーモジュール内での静温度の分布。画像提供: Nordic Air Racing

Nordic Air Racingは、これまで航空レースの経験がなく、改良するために中古のCassutt Special型航空機を購入しました。Rao氏は、次の5つの主要な課題を特定しています。

  • 機首をより長く薄くすることで、機体の外部形状を変更する。
  • 重量のある内燃エンジンをはるかに軽い電動モータに交換しているために、機体の重心のバランスをとる。
  • どちらも胴体のエンジンコンパートメント内に配置されているモータとバッテリーを冷却するのに最適な方法を決める。
  • 機体を軽量化するために、複合材ベースのモータコンパートメントを開発する。
  • バッテリーの設計と性能を最適化する。

Nordic Air Racingは、Ansys MechanicalAnsys Fluentを使用して、機首を変更し、どの程度、胴体上を流れる層流を維持して、全体的な抗力値を最小化できるかを確認しています。また、Mechanicalは重心問題の解析にも使われています。彼らは、プロペラハブ内のカウル(導風口)を使用して、熱システム全体を通して空気を冷却することを選択しました。これにより、冷却抗力が過剰に発生することなく、システムに空気が出入り流するようになります。Fluentは、この領域内での気流を解析するのに役立ちます。Ansys Composite PrepPostは、複合材によるモータコンパートメントの開発に使用されます。

そのため、バッテリー性能を最適化するという課題が残されます。Karelin氏は、次のように述べています。「電動化に関連する大きな問題とは何かを聞くと、どの業界のエンジニアであっても、全員が「バッテリー」と答えます。バッテリーは常にシステムにおける大きな課題であり、大きな危険性と複雑さを抱えています。それは、飛行中にバッテリーが損傷すること、そして過熱することがあってはならないためです。それは安全性に直結します。そのため、チームはシミュレーションに頼ることになります。」

Rao氏は以前、空力工学の研究と論文執筆のためにAnsysのシミュレーションソリューションを使用したため、Fluentの熱流解析に関しては多少の経験がありましたが、Ansysのエレクトロニクスおよびバッテリーシミュレーションソリューションを使うのは初めてでした。彼にとっては、驚くべき経験でした。Rao氏は、次のように述べています。「Ansysのソフトウェアが、電流、電圧、温度分布、バッテリーの構造信頼性など、あらゆる分野のあらゆるパラメータ要件を統合できることに非常に驚きました。」Nordic Air Racingがバッテリーの課題に取り組む中で、近い将来、これらのシミュレーション機能を活用することを彼は楽しみにしています。

電動航空機に電力を供給するバッテリーパックのボリュームメッシング 画像提供: Nordic Air Racing

電動航空機に電力を供給するバッテリーパックのボリュームメッシング  画像提供: Nordic Air Racing

 

ゼロから開発

開始点となる機体がない場合は、やるべき作業が多くなるのは明らかです。しかし、現在4人のメンバーを擁しているオランダのTeamNLにとって、それは止める理由にはなりませんでした。TeamNLのリードエンジニアであり、グライダーパイロットとしても長い経験があるRick Boerma氏は、次のように述べています。「私たちは、完全かつ正確に統合できるような航空機を設計するという目標に向かって最後まで頑張りたいと考えました。重量とバランスの面で既存の機体を改造する必要がないように、バッテリーを翼に内蔵してから、モータと機体を一体化することにしました。ゼロから始めることが利点になることもあります。」

Boerma氏は、Ansysのソフトウェアに関しては知っていたものの、それまでに使用したことはありませんでした。Boerma氏は、さらに次のように述べます。「AnsysがAir Race Eのスポンサーになることを決めたとき、彼らは『このソフトウェアを使いたいですか。』と尋ねてきました。そのような素晴らしい機会を断る人はいるのでしょうか。」  

TeamNLは、これをパッケージング最適化の1つの大きな課題と見なしています。少人数のチームであり(現在もボランティアを歓迎しています!)、時間と資金はいくらあっても足りないため、購入可能な最高のコンポーネントを選択し、最も効率的な方法でそれらを組み上げる必要があります。Boerma氏は、機体の重量をできるだけ低く抑えたいと考えていますが、速く飛ぶためのパワーを得るには大きなバッテリーが必要です。2つの小さなバッテリーを使用した場合、電流負荷が高すぎます。そのため、比較的重いバッテリーを使用して、適切な体積と重量を達成しようとしています。

彼らはAnsys Discoveryを使用して機体の構造を開発し、これらの重量負荷で適切な重心を達成しています。Boerma氏は、次のように述べています。「Discoveryでできることに驚いています。すぐにでも使ってみたいという思いがありました。Discoveryのスピードと、統合されたAnsys SpaceClaimとの使いやすさは本当に素晴らしいです。ジオメトリに穴があり、それが気に入らなければ、それを埋めるだけです。たった5秒で新しい応力分布が表示されます。形状を正しくするためにトポロジー最適化を行うこともできます。」

Discoveryで取得したジオメトリは、数クリックでAnsys Mechanicalにエクスポートできます。Mechanicalを使用することで、安全な設計を確保するために、数パーセントの精度が追加されます。Boerma氏は、次のように述べています。「レースパイロットは、常に、限界を超えて物事を推し進めたいと考えます。しかし、航空分野では安全が最優先事項です。もちろん、できるだけ高速で飛行してレースに勝ちたいと思っていますが、パイロットが安全に地上に戻ることが最優先です。」

航空レースの近い未来

Air Race Eの最初の予選レースは2021年の後半に開催され、その時点で電動航空機の準備ができているチームが参戦します。すでに16チームが参加表明しましたが、ご自身のチームを立ち上げたい場合は、まだ時間があります。Air Race Eは、2022年に予定されているWorld Championship of Electric Air Racingを超えて進化し続けていく予定です。Ansysのエキスパートは、すべてのチームがシミュレーションを使用してプロセス全体で課題を解決する方法を学ぶのを支援します。

Karelin氏は、次のように述べています。「さまざまなチームが、2022年に向けて航空機を準備するための時間との闘いに直面しています。そのため、航空機とバッテリーの設計をシミュレーションできることで、ある特定の開発経路に長い時間をかけた後で、その道を引き返すことが必要になるような状況を防ぐことができます。設計変更を即座にテストできることは、大幅なコスト削減につながります。参戦するチームは、コストを賢く使うことが求められています。」