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ミックスドシグナル集積回路とは

ミックスドシグナル集積回路では、アナログおよびデジタルコンポーネントが単一の半導体チップに実装されます。従来のアナログ回路またはデジタル回路の設計はそれぞれの利点に依存していましたが、ミックスドシグナル集積回路は、両方の長所を活かして最適なチップ性能を実現します。スマートフォンやポータブルデバイスの普及に伴い、ミックスドシグナル集積回路の注目が高まっています。

アナログ信号とデジタル信号

信号は、その最も基本的な形態では、空気や光などの媒体を介して1つの系から別の系へ伝送される情報を表します。たとえば、人の声は空気を介して伝わります。

電気入出力信号は、バッテリセンサーモータ、アクチュエータ、コンバータ、回路など、さまざまなエンジニアリングアプリケーションで使用され、情報をほぼ無限に操作できるようになります。

アナログ信号とは

アナログ信号は、無限の数の値をとることができる連続的で時間変化する信号です。電圧、周波数、電流など、物理特性の変化を利用して情報を伝達します。たとえば、人間の目は、光の変化(連続的な波形アナログ信号)を介して情報を受け取り、周囲環境を把握します。

アナログ伝送には2つの種類(周波数変調(FM)と振幅変調(AM))があります。それぞれの名前が示すように、FMは周波数の変化、AMは振幅の変化で情報を伝達します。

アナログ信号は、オーディオおよびビデオの伝送、あるいは温度、光、音など、現実世界における物理的な情報の伝達に適しています。一般的に、アナログ信号は、無線、水、またはケーブル(ツイストペア、同軸、または光)を介して送信されます。アナログ信号を捉える機器としては、電話、ボイスレコーダー、温度センサー、制御システムなどがあります。

アナログ信号:

  • 密度が高い(つまり、より多くの情報を伝達する)
  • 帯域幅への負荷が少ない
  • より安価で処理が容易

IC基板上のアナログコンポーネントとしては、オペアンプ、抵抗器、コンデンサ、トランジスタなどがあります。

デジタル信号とは

デジタル信号は離散的であり、有限の数の値しか取りません。デジタル信号は、実際にはアナログ信号のサブセットであり、伝達する情報はアナログ信号の数分の1です。これらは通常、電圧、偏光、磁化などの量のオン/オフ状態を表すバイナリ形式(0と1)で符号化されます。

デジタル信号は、無線通信、コンピュータバス、ストレージメディア、ネットワーク、データ通信で一般的に使用されます。

デジタル信号:

  • 暗号化が容易
  • アップグレードと構成が容易
  • 長距離信号処理に最適で、シグナルインテグリティが維持される

デジタル回路基板の代表的なコンポーネントとしては、マイクロコントローラユニット(MCU)やデジタル信号プロセッサ(DSP)があります。デジタル回路は、基準クロックによって動作が調整されることで同期が取られます。これは、情報が入力で処理され、非同期であるアナログ回路とは対照的です。

ミックスドシグナル集積回路のタイプ

集積回路(IC)の多くは、小さな電子部品を1つの小型チップに統合することで、さまざまなアプリケーションをサポートします。たとえば、デジタルIC、アナログIC、ミックスドシグナルIC、特定用途向け集積回路(ASIC)があります。

多くの場合、これらのICを組み合わせることで目的を達成しています。たとえば、ASICやマイクロコントローラはデジタル回路とアナログ回路の両方を実装しており、実際にはミックスドシグナルICです。

アナログ回路とデジタル回路を組み合わせたミックスドシグナルICにより、柔軟性の高い高度な半導体チップを設計および開発できます。

ミックスドシグナルICは、受動素子(コンデンサなど)と能動素子(電源管理に使用される高電圧トランジスタなど)を組み合わせて、精度と性能の最適なバランスを達成します。

アナログミックスドシグナル(AMS)チップ

アナログミックスドシグナルチップは、アナログ信号とデジタル信号を1つのチップ設計にシームレスに統合することで、アナログセンサーとデジタルプロセッサの間のスムーズな通信を確立して、次世代の電子デバイスを支え、IoTネットワークなどを強化します。次のようなチップがあります。

  • 無線周波数集積回路(RFIC): RFICは、高周波アナログ設計アプローチとマイクロ波回路設計手法を組み合わせて、変調器/復調器、アンプ、発振器、フィルタ、ミキサーを1つのチップに集積します。セルラー方式、無線システム、ナビゲーションシステムなど、さまざまな無線通信システムに実装されています。
  • メモリチップ: メモリチップは、情報を一時的に保存(ランダムアクセスメモリ)または永続的に保存(読み取り専用メモリ)する数百万個のコンデンサやトランジスタを組み込んだミックスドシグナルICです。
  • 電圧レギュレータ: 電圧レギュレータは、より広い集積回路で一定の電圧レベルを維持する3本(またはそれ以上)のピンを内蔵する集積回路です。スイッチング電圧レギュレータは、トランジスタスイッチ、ダイオード、コンデンサ、インダクタといったコンポーネントで構成されます。
  • 電源管理集積回路(PMIC): PMICは、複数の電圧レギュレータと制御回路を1つのチップに集積した高効率の電源装置です。エッジコンピューティング、IoT、自動運転車、電気自動車など、さまざまなアプリケーションで電力供給を担います。

アナログ-デジタルコンバータ(ADC)

ミックスドシグナルICの重要な用途は、実世界の物理的な(アナログ)信号を機械可読形式(デジタル)に変換することです。

したがって、ADCはビデオおよびオーディオ機器、温度センサー、圧力センサー、モーションセンサー、医療機器、通信システム、あるいはアナログ入力の処理を必要とするその他のデジタルデバイスで使用されます。ADCの原理に関する重要点をいくつか上げます。

  • アナログ信号をデジタル信号に変換するには、標本化(サンプリング)、量子化、符号化の3つの手順があります。
  • サンプリングレートとは、連続するアナログ信号について1秒あたりに取得するサンプル数です。これは、変換後のデジタル信号の品質に影響を及ぼす重要な量です。サンプリングレートは、対象媒体によって異なります。たとえば、電話回線の場合は8kHz(1秒間に8,000サンプル)、Voice over Internet Protocol(VoIP)の場合は16kHzです。
  • 量子化の際、測定された信号振幅は、バイナリ形式で表現するために端数が切り捨てられます。その結果、実際のアナログ信号の値と出力されたデジタル信号の値にわずかな誤差が生じます。これを「量子化誤差」と呼びます。

デジタル-アナログコンバータ(DAC)

デジタル信号は、多くの場合、物理的な形式に変換する必要があります。デジタル信号をテレビやスクリーンのアナログの光あるいはスピーカーの音響に変換するときには、DACが使用されます。

DACの原理に関する重要点をいくつか上げます。

  • 変換後の信号の品質に大きな影響を及ぼすのが、分解能、変換時間、基準値です。
  • 分解能は、DACの最小出力単位を表します。
  • 変換時間は、入力信号と出力信号の間の経過時間です。
  • 基準値は、DACで達成可能な最高電圧値を示します。低分解能/高周波DACは、画像、動画、映像の出力に用いられ、高解像度/低周波DACは音響出力に用いられます。

アナログおよびデジタルコンポーネントを半導体チップ上のシングルユニットADCおよびDACに集積する主な利点は、消費電力、帯域幅、および信号の歪みを削減できることです。

ミックスドシグナル集積回路の設計における検討事項

集積回路の設計フローは、製造の準備(ファウンドリなど)が整うまで回路を設計するプロセスを表します。集積回路の設計では、さまざまなツール、ソフトウェア(コンピュータ支援設計を含む)、プロセス(電子設計自動化を含む)、デバイスを使用して、プロセスをシミュレーションおよび最適化し、エラーを排除します。集積回路の設計において、

  • デジタル集積回路の設計では、トランジスタスイッチや論理回路が統合されます。
  • アナログ設計では、コンデンサ、トランジスタ、アンプ、ダイオードなどから伝送される、デジタル化されていないアナログ信号が統合されます。
  • 無線周波数集積回路の設計(アナログ設計のサブセットと見なされることが多い)では、RF現象が支配的な数百キロヘルツを超える信号が統合されます。

ミックスドシグナル集積回路の設計では、上記の設計を混在させることができます。システムオンチップ(SoC)やシステムインパッケージ(SIP)テクノロジーなどの最新アプローチでは、各分野の設計が単一のチップに統合されます。

こうした最新アプローチは、通信、センシング、処理、ストレージなど、さまざまな機能を実行する多機能デバイスで採用されることが増えています。

急速に進歩している無線通信技術(5G、LoRa、Wi-Fiなど)、IoT、センシング技術によって、複雑さが増したミックスドシグナルICが出現しているため、ミックスドシグナル設計では、設計目標を達成するために多分野にわたるチームが協力しながら電子設計自動化(EDA)ツールを活用する必要があります。

一般的なミックスドシグナル設計フローは、以下で構成されます。

  • デジタルおよびアナログ(またはRF)挙動シミュレーションを含む、領域固有の設計
  • ミックスドシグナル解析
  • レイアウト(アナログ設計の物理的レイアウトまたはデジタル設計の配置配線を含む)
  • アセンブリおよび物理的検証
  •  ミックスドシグナル機能検証
  • テープアウト

ミックスドシグナルICの集積化における課題

ミックスドシグナル集積回路は、アナログ回路やデジタル回路よりも設計が複雑です。たとえば、アナログコンポーネントとデジタルコンポーネントは、ミックスドシグナル回路の電源を共有できます。しかし、それぞれの消費電力特性が大きく異なるため、ミックスドシグナル設計では難しい問題となります。そのため、ミックスドシグナル回路の設計では、軽量化とサイズの削減を達成しつつ、デジタル回路とアナログ回路の間の相互接続をできる限り減らすことを目指します。

また、ミックスドシグナル半導体チップは、通常はより大きなアセンブリ内(スマートフォンの無線サブシステムなど)で動作し、SoCを実装することが多く、場合によってはオンチップメモリブロックを内蔵します。こうした背景により、ミックスドシグナルチップの製造はさらに複雑になります。

ミックスドシグナル集積回路の製造には、他にも複雑な問題があります。

  • デジタル回路の設計手法は、アナログ回路よりもはるかに高度です。デジタル回路設計では、その大部分を自動化できますが、アナログ回路では自動化できる部分が非常に少ないため、制限が生じます。
  • 急速に変化するデジタル信号は、感度の高いアナログ入力でノイズを生じさせるため、結果として基板結合が発生します。
  • 相補型金属酸化膜半導体(CMOS)トランジスタ技術はデジタル回路との集積に適しており、バイポーラトランジスタ技術はアナログ回路に適しています。これは、近年にBiCMOS(Bipolar CMOS)などのテクノロジーが開発されるまで、ミックスドシグナル集積回路の設計上の問題となっていました。
  • ミックスドシグナル集積回路は特定のユースケース向けに設計されることが多く、テストには時間とコストがかかるため、そうした点も課題となっています。

ミックスドシグナル集積回路のテストの重要性

ミックスドシグナル設計における故障の主な原因は、エレクトロマイグレーションと電圧降下です。そのため、設計者はこれらの複雑さも理解する必要があります。

また、自動テストはミックスドシグナル集積回路の設計では課題となるため、エンジニアは設計をテストするために、Totem-SCなど、コンピュータ支援設計(CAD)に特化したソフトウェアを使用する必要があります。

Totem-SCはは、トランジスタレベルおよびミックスドシグナル設計のための半導体業界の標準として知られるマルチフィジックスサインオフソリューションであるTotemのクラウドネイティブバージョンです。ファウンドリ認証済み(最小3nmまでのFinFETプロセス)のシリコン相関シミュレーション結果により、設計の最適な性能が実証されます。

ミックスドシグナル集積回路の適用分野

最新の半導体技術は、電力、性能、シリコン面積(PPA)で目を見張るほどの水準に達していますが、デジタル仕様とアナログ仕様の統合がこれまで以上に求められるチップ設計プロセスにも、多くの複雑さが伴うようになりました。

その結果、ミックスドシグナル集積回路は、センサー、撮像装置、産業用制御および電源管理、自動車アプリケーション、IoT、医療などのさまざまな機器に電力を供給しています。

ミックスドシグナル集積回路が実装されるデバイス例:

  • シリアライザー/デシリアライザ(SerDes)
  • アナログ-デジタルコンバータ
  • デジタル-アナログコンバータ
  • 電源管理集積回路
  • 高帯域幅メモリ(HBM)
  • ダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)
  • 組込みメモリシステム
  • フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)
  • セルラー方式通信における音声プロセッサ
  • モノのインターネット(IoT)ネットワークにおける温度センサー、圧力センサー、その他のセンサー

集積回路基板における電気的、熱的、および機械的な問題を解決する設計の実例については、無料で提供されるAnsysレポート「プリント基板および電子パッケージのための電熱および機械的応力の参照設計フロー」をご覧ください。

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