Ansysは本日のプレスリリースにおいて、NVIDIA社およびTexas Advanced Computing Center（TACC）とのコラボレーションにより、数値流体力学（CFD）シミュレーションにおいて画期的な成果をあげたことを発表しました。このプロジェクトでは、TACCのVistaスーパーコンピュータ上の320個のNVIDIA GH200 Grace Hopper Superchipノードを使用して、自動車の非常に複雑な外部空力シミュレーションが行われました。
Texas Advanced Computing Center（TACC）にあるVistaスーパーコンピュータ
このシミュレーションでは、24億セルのモデルに取り組み、従来の中央処理装置（CPU）ベースのアプローチと比較して110倍の高速化、22万5,000以上のCPUコアに相当するパフォーマンスなど、並外れた結果を達成しました。その結果、これまでは1ヵ月近くかかっていたシミュレーションが6時間強に短縮され、一晩での高い忠実度のCFD解析が現実のものとなり、業界における新しい基準の確立に貢献しています。
エンジニアリングシミュレーションにおける革命
自動車業界は、他の多くの業界と同様、イノベーションを生み出しつつ、市場投入までの時間を短縮しなければならないという絶え間ないプレッシャーに直面しています。しかし、特に従来のCPUシステムで現実的な空力シミュレーションを高精度で実現するには膨大な時間がかかります。このAnsys、NVIDIA社、TACCによる最新のコラボレーションは、製品設計において高速化、コスト削減、そして新たな知見をもたらすブレイクスルーを生み出しています。このグラフィックスプロセッシングユニット（GPU）主導の飛躍により、エンジニアリングや製品開発の担当者は、単により速く結果が得られるだけでなく、これまでにない規模と複雑さを持つシミュレーションを実行し、以前は手に入れることができなかった知見を得ることもできます。
GPUを使用した複雑な自動車空力シミュレーションへの取り組み
自動車空力シミュレーションは、膨大な計算量を必要とするため、最も複雑なCFD解析の1つと言えます。車両の複雑な形状の上を流れる気流を正確にシミュレーションするためには、高解像度メッシュを使用し、数千万、場合によっては数十億のセルを作成する必要があります。こうした超微細な解像度は、過渡および乱流の物理現象を正確に捕捉するために不可欠ですが、従来のCPUハードウェアで実行した場合は、解析時間が大幅に長くなり、所要電力が増加します。
TACCの320個のNVIDIA GH200ノードを用いた最近のシミュレーションでは、GPUがこれらの膨大なワークロードを効率的に処理することで、はるかに短い計算時間で正確な結果が得られることが明らかになりました。エンジニアにとって、これは以下の2つの強力な利点になります。
- 高品質な製品で解析時間を短縮。これまで数週間かかっていた作業を数時間で完了できるようになり、設計変更の迅速化と製品開発サイクルの短縮が可能になりました。
- 忠実度の高い知見。エンジニアはNVIDIAアクセラレーテッドコンピューティングを使用することで、解析時間を延ばすことなく、スケール解像乱流モデルなどのより複雑なモデルに取り組むことが可能となり、これによって、より正確で現実的な結果を得て製品開発に活かすことができます。
ユーザーへの影響：主要な課題への取り組み
時間効率:
複雑な自動車シミュレーションは、従来、解析時間が長く、オンプレミスのCPUハードウェアでは数週間を要することがありました。これにより、研究開発（R&D）プロセスが遅れ、市場投入までの時間が延びてしまいます。自動車エンジニアはGPUを採用することで、シミュレーション時間を大幅に短縮し、設計調整を迅速化することで、製品開発サイクルを加速させることができます。このようなGPUによる速度向上は、スケジュール通りに市場投入できるか、あるいは市場シェアを失うことになるかの分かれ道になることがあります。
コスト節約
CPUベースのシミュレーションは、時間がかかるだけでなく、消費電力が大きいため、エネルギー消費が増加し、冷却要件も厳しくなり、運用コストが増大します。一方、GPUの効率性により、はるかに少ないハードウェアで同等以上の成果を得ることができ、電力コストや物理的リソースを削減することができます。GPUへの先行投資は一見コストがかかるように見えるかもしれませんが、エネルギーコストやエンジニアリングコストの削減によって、そのコストをすぐに回収できるため、この技術は短期的にも長期的にも効果を発揮します。
精度と詳細の向上
多くの場合、ハードウェアの制約により、エンジニアは短期間で成果を得るためにモデルを簡略化する必要があり、これによって精度が低下する可能性があります。しかし、GPUによって提供される処理能力により、これらの制約に縛られることがなくなります。解析時間を延ばすことなく、非常に詳細なモデルをシミュレーションし、可能な限り正確で現実的な結果を得ることができます。高い忠実度でモデル化できる機能により、最終製品の品質、性能、ロバスト性が向上します。
業界の先を見据える
この成果は、自動車シミュレーションやハイパフォーマンスコンピューティング（HPC）に直接関係しない分野のユーザーにとっても、さまざまな業界に影響を与える技術の進化の証となるものです。ここでは、このブレイクスルーがAnsysの直接的な顧客層を超えて重要である理由を説明します。
- 製品開発の限界を押し広げる。Ansys、NVIDIA社、TACCによるコラボレーションは、シミュレーションの可能性を現実のものにし、スピードと忠実度の新たな基準を打ち立てるのに貢献しています。この画期的な成果が示すのは、忠実度の高いシミュレーションがハードウェアの制約に縛られる必要がなくなり、より野心的で革新的な製品開発が可能になるということです。
- GPUコンピューティング機能を向上させる。このプロジェクトでは、NVIDIAアクセラレーテッドコンピューティングを使用してAnsysのソフトウェアのスケーラビリティを実証することで、複雑なシミュレーションを利用しやすく実用的なものにするGPUコンピューティングの役割を浮き彫りにしています。これにより、航空宇宙からエネルギーまでに至る他の業界が独自の製品イノベーションを加速させるために利用できる基準が構築されます。
- 持続可能でコスト効率のよいシミュレーションを実現する。また、このAnsysとNVIDIA社によるコラボレーションは、GPUコンピューティングの効率性も浮き彫りにしています。このアプローチは、時間とコストの節約だけでなく、消費電力の削減も実現し、ビジネスの持続可能性向上に寄与します。GPU技術の向上に伴い、業界はより少ないリソースでより高いパフォーマンスを達成できるようになり、企業と環境の両方に利益をもたらすトレンドが生まれています。
- 優れたシミュレーション機能へのAnsysの取り組みを示す。この画期的なシミュレーションは、AnsysがHPCを前進させるために行っている取り組みを裏付けるものです。私たちは、スケーラブルで高性能なGPUコンピューティングソリューションを提供することで、企業がハードウェアへの投資を最大限に活用し、高忠実度のシミュレーションを単なる贅沢ではなく実現可能な選択肢に変えるお手伝いをしています。
AnsysとNVIDIAアクセラレーテッドコンピューティングでイノベーションを加速
このAnsys、NVIDIA社、TACCによる画期的なコラボレーションは、大きな変化をもたらしています。この自動車空力シミュレーションでは、320個のGPUを使用して110倍の高速化を達成し、CFDにおける新たな基準を打ち立てています。GPUを活用したAnsysのソリューションは、解析時間の短縮、コストの削減、これまでにない詳細なモデリング機能によって、より優れた製品の設計と市場投入までの時間の短縮を実現します。
GPU機能を進化させ続けているAnsysでは、最も困難なシミュレーションに取り組むために必要なツールを企業に提供することに尽力しています。Ansysは、この最新の取り組みを通じてエンジニアリングの限界を広げ、製品開発の未来を変革しています。これは、GPUコンピューティングが自動車業界などのさまざまな業界で達成できることのほんの始まりにすぎません。
シミュレーションを次のレベルに引き上げたい方は、11月17日から22日までアトランタで開催されるSupercomputing 2024（SC24）に参加するか、電子ブックをダウンロードし、NVIDIAアクセラレーテッドコンピューティングでマルチフィジックスシミュレーションをスピードアップする方法をご覧ください。
