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AIを活用した設計で自動車の安全性を加速

9月 20, 2024

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Srikanth Adya | Ansys、リードアプリケーションエンジニア
Ansys SimAI

自動車の設計に安全性を組み込むことは、企業がとるべき正しい姿でも、規制上の要件でもありません。安全性は自動車業界にとって、道徳的な義務です。事故はさまざまな場面で起こります。事故が発生した場合、車両の設計がドライバー、乗客、歩行者の生死を左右することもあります。また、より安全な設計は、衝突によって生じる個人や医療関連、そして社会の経済的負担を軽減します。

本質的に、すべての車両を可能な限り安全にすることは、開発する業界の能力に大きくかかっています。

いかなる代価を払っても安全性を確保することが理想的ですが、自動車エンジニアは、開発スケジュールの短縮や予算の制限といった形で多くのプレッシャーにさらされています。その結果、エンジニアは事故の重大度を軽減すると思われる安全面に優先順位を付けたり、安全機能の段階的な実装など、よりコスト負担の少ない戦略を模索しなければなりません。

安全性と市場投入までの時間でバランスをとるために、車両設計プロセスではCAE(Computer-Aided Engineering)が不可欠となっています。仮想解析を実行することで、コストのかかる実機試験を減らしながら、車両の衝突および安全性能を信頼性の高い方法で評価できるようになります。

最近、Ansysのアプリケーションエンジニアたちは、クラウド対応の生成AIプラットフォームであるAnsys SimAIを使用して、高速走行での正面衝突時に車両バンパーがどのように変形するかを迅速に予測しました。

こうした解析を通じて、特に数値流体力学(CFD)ソルバーでシミュレーションされる、絶えず動く流体を効果的に予測できることが実証されているソフトウェアで、非線形、非定常構造シミュレーションなど、他の物理現象も扱えることが示されました。

精度と速度

車両の複雑さが増すにつれて、設計に使用されるデジタルモデルも複雑になっています。モデルはこれまで以上に大きくなり、より多くの計算リソースと非常に長いシミュレーション時間が必要になりました。

今日では、4000万~5000万要素で構成された車両全体のモデルを使用することも珍しくありません。このモデルを使用して、700~1,000個のCPUで構成される最新のハイパフォーマンスコンピューティングクラスタで衝突イベントを解析するには、25~30時間ほどかかります。さらに、そこに至るまでに数か月の準備が行われています。エンジニアは、初期の概念段階で一般的に行われるレガシープログラムから部品やサブシステムを再利用した後に残った重複や貫通(ギャップ)を除去して、新しいCADをクリアにし、さらにCADのメッシング、必要な接続と材料の追加、エラーのデバッグ、ベースライン性能の確立という一連の作業を行います。

それでも、エンジニアが明確に設計変更を定義し、変更されるモデルの重要な各側面についてパラメータを作成していない限り、すべての設計変更がCAEモデルに反映されないこともあります。特に複雑な設計変更では、パラメータ化は高度で時間がかかるため、徹底的に評価されるのは、ごく数件の設計です。

そうした状況では、SimAIプラットフォームが必要になります。

SimAIは、Ansysのシミュレーション予測精度と生成AIの速度を組み合わせることで、新しい設計の完全な3D応答をたった数分で予測できます。複雑で計算負荷の高いプロジェクトの場合、有限要素法ソルバーの10~100倍の速度で出力を予測できます。

シミュレーションプロセスをスピードアップさせることで、より多くの設計検討が可能になります。自動車エンジニアは、追加のアイデアやイノベーションを試し、プロセスの早い段階から設計に集中できるようになります。

ソフトウェアのトレーニング

SimAIは、流体、構造、電磁界などを扱い、物理場に依存しないトレーニングが可能なクラウドベースのソフトウェアです。

すべてのものが急速に変化する自動車の衝突のような過渡的なシナリオをどのように予測するかを示すために、Ansysのアプリケーションエンジニアは、構造シミュレーションソフトウェアであるAnsys LS-DYNAを使用して、単純化された車両モデルである「スレッド」から始めました。このケースでは、スレッドを使用して、1秒あたり15.6メートルの速度で剛体壁に衝突するバンパーをシミュレーションしました。

過渡応答を正確に予測できる十分なデータポイントを生成するために、エンジニアたちは設計バリエーションを導入しました。最小境界および最大境界において7つのパーツの厚さを変更することで、それぞれが異なる21種類の状態(破砕、曲げ、折り曲げなど)を伴う98個の設計が作成され、トレーニングポイントの合計は、2,058個になりました。

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バンパーの衝突モデル。ハイライト表示されたパーツの厚さが変更されました。

そのデータをSimAIプラットフォームにアップロードすると、トレーニング、妥当性確認、テストセットに自動的に分割されました。エンジニアは、妥当性確認セットを使用して、モデルの基盤となる構造を調整し、性能を向上させました。また、テストセットを使用して、不慣れな状況にモデルがどの程度うまく対応できるかを確認しました。

次に、モデルの設定を行いました。設定には以下についての決定が含まれます。

  • 境界(または衝突)条件。
  • 入力 - このケースでは、衝突時のさまざまな時間点と複数のパーツの厚さ。
  • 出力、剛体壁の力(壁が受ける力)、および節点変位(バンパーにマークした点が上下左右にどの程度移動するか)。
  • 精度レベル(モデルのトレーニングに必要な時間に直接影響する)。精度の高いモデルのトレーニングには最大で2日かかり、非常に精度の高いモデルのトレーニングには通常1週間かかります。このケースでは、モデルのトレーニングに約21時間かかりました。
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バンパーの変形状態と剛体壁の時間履歴プロット

SimAIの精度を評価するために、エンジニアたちは衝突時に壁によってもたらされる力をSimAIで計算し、従来のソルバーで得た結果と比較しました。

picture3

節点上に変位場があるサンプル.vtpファイル。ジオメトリは.vtpまたは.vtuファイル形式で書き出されます。.vtpはサーフェス(シェル要素)データ、.vtuはボリューム(ソリッド要素)データを保持します。

結果の一致

ソルバーとSimAIで得た予測をプロットすると、わずかな相違が見られました。どちらも同じ時間ステップでバンパーの形状と壁の力が予測されましたが、点は完全には一致しませんでした。AIが仮定した点は、ソルバーのグラフで示される斜めに伸びる直線上には厳密には配置されていません。

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グローバル係数rigidwall_forceについて、クラウド対応生成AIプラットフォームAnsys SimAIで出力されたトレンドプロット

この一部の不一致は、正確なデータであることを示しています。

完璧な一致は、必ずしも最良の結果であるとは限りません。完全一致は、AIがトレーニングデータを過剰にフィッティングした可能性を示します。つまり、AIが、基盤にあるルールではなく、トレーニングされた特定の例を記憶した可能性があるということです。過剰にフィッティングしたAIは、過去に類似データのない、まったく新しい設計を予測するのには適していません。

ここで、SimAIでの予測は、ソルバーでの予測と概ね一致しているため、SimAIモデルは過剰なフィッティングなしで正確であることが示されました。プロットにも、AIのトレーニングを改善して、さらに良い結果を得ることができる部分も示されました。

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ソルバーとSimAIプラットフォームの変形した形状の比較

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ソルバーとSimAIプラットフォームのrigidwall_force予測の比較

より高速に安全性を解析

最終的に、SimAIは従来のソルバーよりもはるかに高速であることが実証されました。壁にかかる力を1秒以内で予測し、バンパー全体の動きも約10秒で予測しました。

もちろん、従来のシミュレーションよりも速度だけが優れているわけではありません。SimAIでは、衝突時のあらゆる時点で何が起こるかを予測できるため(トレーニング対象データに限定される)、結果だけでなく中間状態も含めて、バンパーの変形の遷移がより詳細に示されます。

この予測を活用することで、自動車エンジニアは、過渡的な非線形イベントに対して単一の正確なモデルを使用できるようになり、開発予算を抑えながら、より安全な自動車を短時間で市場に投入できるようになります。

SimAIプラットフォームの詳細については、ホワイトペーパー「Ansys SimAIを活用して車両衝突の結果をフル法時刻歴応答解析で予測」をダウンロードしてください。


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SimAIプラットフォームの詳細については、ホワイトペーパー「Ansys SimAIを活用して車両衝突の結果をフル法時刻歴応答解析で予測」をダウンロードしてください。


リードアプリケーションエンジニア

Srikanth Adyaは、LSTサポートエンジニアとして2019年にAnsysに入社しました。それ以前は、LSTC社で自動車アプリケーションコンサルタントを務めていました。また、General Motors社、EASi Engineering社、Schneider Electric社でエンジニアリング関連の職務を経験しています。機械工学で学士号、航空宇宙工学で修士号を取得しています。 

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