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マルチフィジックスとは

物理現象は、実際には1つずつ発生するわけではありません。流体、構造、熱、電磁界の力は常に相互に作用しています。これらの領域が交わる場所で、熱伝達、変形、物質移動などの現象が発生します。

マルチフィジックスとは、コンピュータシミュレーションを通じてそうした物理的な力の間で生じる複雑な相互作用の解析を意味します。個々の物理ソルバーを1つの計算フレームワークにまとめることで、マルチフィジックスワークフローでは、実際の物理現象がどのように生じるかに基づいて、システム全体の振る舞いを正確に一度でモデル化できるようになります。

マルチフィジックスモデルは、単一物理場解析では不十分な部分を補います。 

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マルチフィジックスワークフローを使用して解析できる適用分野の例

マルチフィジックスの例

2つ以上の物理場(流体と構造、あるいは構造と電磁界など)が相互に作用しているとき、それらは連成されていると表現します。こうした相互作用は、スマートフォンの画面をタップするとき、でこぼこの道を走行するときなど、身の回りで頻繁に生じています。以下に、マルチフィジックス連成の一般的な例を挙げます。

流体-構造相互作用(FSI):

航空機の安全性: 気流(流体力学)が着陸装置の変形や衝撃吸収(構造力学)に与える影響のモデリング

熱-光学連成:

ヘッドアップディスプレイ(HUD): 車外温度(熱的影響)が車両内に投影された画像の明瞭さに与える影響(光学)のモデリング

構造-音響連成:

交通騒音: タイヤと路面の摩擦(構造力学)によって車両内で生じる反響音の聴こえ方(音響)のモデリング

電磁界-熱連成:

発電: 熱交換器やファンを最適化するために、モータのエネルギー場(電磁界)がどのように熱を発生させるか(熱力学)のモデリング

マルチフィジックス解析が必要となるエンジニアリング問題は、さまざまな度合の連成で解くことができます。

対象の物理問題が、物理場の弱い連成を伴う場合(流体力によって構造応力が生じるが、構造が大きく変形しない場合など)は、一方向連成解析で解くことができます。

強い連成がある場合(構造で大きな変形が生じており、流れに影響を与える場合など)は、双方向連成解析が必要です。

マルチフィジックスの適用分野

さまざまな業界で、エンジニアはマルチフィジックスソリューションを使用して設計プロセスの早い段階で問題を特定し、情報に基づいた意思決定で最適化を実施して、最終製品の安全性と性能を確保しています。企業は、複数の連成された物理場が相互作用する実際の環境において、製品がどのように振る舞うかを正確に予測する必要があります。

航空宇宙: 航空機の翼の最適な重量、形状、構造を決定するための流体-構造相互作用解析

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自動車: ヘッドライトの熱膨張と変形をシミュレーションして光学性能を予測 

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ヘルスケア: インプラントやステントなどの医療機器の構造とヒト組織間の相互作用をモデリング

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産業用途: 磁気解析、構造解析、音響解析を通じて振動源を特定することで、モータの摩耗と亀裂を低減

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マルチフィジックスシミュレーション

コスト、時間、安全性の制約があり、実験では容易に調査できない複数の物理領域間で同時に発生する複雑な相互作用を、マルチフィジックスシミュレーションを導入することでモデル化できるようになります。マルチフィジックスシミュレーションを使用して、エンジニアリング分野を横断してデータを伝達および変換することで、製品の性能をより深く理解できます。

近年のコンピュータ容量の増大、より高速でロバストなソルバー、ワークフローを作成するための改良された手法により、単一物理場シミュレーションから包括的なマルチフィジックスシミュレーションへの移行が加速しています。この変革により、エンジニアは、設計が実際にどのように機能するかをより正確に予測できるようになります。

マルチフィジックスシミュレーションの利点

現実的なモデリング: 複数の物理領域が同時に相互作用する現実のシナリオを正確に捉えます。

システムレベル解析: 物理連成がシステム全体の性能にどのように影響するかについての知見を得られます。

時間効率: サイロ化された領域ではなく、システム全体を同時に解析できます。

マルチフィジックスシミュレーションの課題

データの整合性: 物理領域が異なると、時間スケール、空間スケール、メッシュ解像度が異なります。

ユーザーの専門知識: マルチフィジックスシミュレーションの解釈には、さまざまな分野の専門知識が必要になります。

計算負荷: マルチフィジックスシミュレーションの処理強度には、多大なリソースと時間が必要です。

マルチフィジックス解析ツール

一般的に、単一ソルバーは、構造力学、流体力学、電磁界など、特定の物理分野にフォーカスしています。ただし、自己完結型のマルチフィジックスモデルを含むソルバーもあります。たとえば、流体シミュレーションソフトウェアのAnsys Fluent®では、流体力学の解析に加えて、音響、運動、固体の熱伝達、熱応力もモデル化できます。マルチフィジックス機能を備えた単一ソルバーは、モデルがジオメトリ、メッシュ、および設定を共有する場合の連成解析に役立ちます。

ただし、製品の複雑さが増すにつれて、単一物理場シミュレーションでは不十分となることもあります。

そうした場合は、コシミュレーションが必要になります。特殊なソルバーを接続することで、異なる物理現象間の複雑な相互作用をより正確に捕捉できるようになります。物理ソルバー接続ソフトウェアのAnsys System Coupling™のようなツールでは、主要なすべてのソルバーが1つのインターフェースに統合されます。これにより、統合された単一エンジニアリング環境で、領域を横断する忠実度の高いモデルを簡単に作成できます。

単一ソルバーマルチフィジックス: 連成された物理方程式の特定のセットに対して、1つのソルバーで領域を横断する解析を実行します。相互作用が密に連成される簡単な設定となります。

システムカップリングマルチフィジックス: 1つの計算フレームワークで、特殊なソルバー間でデータが調整され、交換されます。物理モデル間の相互作用を捕捉するために、複数の独立したソルバーの調整が必要となる複雑な状況をモデル化する際に、優れた柔軟性をもたらします。

これからのマルチフィジックス

現在の製品開発では、チップや3次元集積回路(3D-IC)の持続可能性や電力密度の向上など、これまで以上にマルチフィジックスモデリングの適切な応用が必要となる動向が見られます。企業が無駄を省きながら電力を増加させるためのイノベーションに取り組む中、マルチフィジックス解析は、設計内の物理現象間の相互作用を深く理解するために必要となる総合的な知見をもたらします。

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