Ansysは、シミュレーションエンジニアリングソフトウェアを学生に無償で提供することで、未来を拓く学生たちの助けとなることを目指しています。
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Ansysブログ
April 19, 2024
「日焼け止めを忘れないで!」
子供の頃、母親や父親から日焼け止めを塗りなさいと何度言われたことでしょう。当時はうっとうしく感じたかもしれませんが、それには理由があったのです。毎年、米国人の3人に1人以上が炎症を伴う日焼けをすると報告されています。多くの人が知っているように、炎症を伴う日焼けは痛みを伴うことも多くありますが、痛みやかゆみだけであれば、過度に心配することはありません。日光や日焼けマシンなどによって紫外線(UV)に過度に晒されると、皮膚がんになる可能性があります。皮膚がんは米国で最も多いがんで、毎年およそ500万人の人が治療を受けています。皮膚がんにはいくつかのタイプがありますが、最も深刻なのは、他の部位に転移する可能性のある皮膚メラノーマです。
メラノーマは、私たちの皮膚に色をつける細胞であるメラノサイトから始まるがんです。多くのメラノーマはほくろ状の病変から始まりますが、大部分は正常な皮膚に発生します。メラノーマの皮膚がんに占める割合は1%ほどですが、皮膚がん関連死の大半を占めています。これは恐ろしく聞こえますが、セルフチェックを行ったり定期的に皮膚科を受診することで早期に発見されたメラノーマは治療可能です。
現在のスクリーニング方法では、個々の色素性病変をチェックしてメラノーマの徴候があるかどうかを確認する全身検査が行われますが、特にほくろや色素沈着が多い患者の場合は、非常に時間がかかることがあります。欧州連合(EU)のホライズンヨーロッパプログラムでは、メラノーマの早期発見をより簡単かつ効率的にするための取り組みの一環として、iToBoS(Intelligent Total Body Scanner for Early Detection of Melanoma)プロジェクトに資金を提供しました。
iToBoSでは、賛同するパートナー企業がメラノーマの発見に役立つ人工知能(AI)診断プラットフォームの開発に取り組んでいます。このプラットフォームには、全身スキャナーと、以下のような患者固有のデータを統合するコンピュータ支援診断(CADx)ツールが組み込まれています。
これらすべてのデータを統合することで、ヘルスケア専門家が、その患者特有の色素性皮膚病変について正確で詳細かつ体系的な評価を行うことが可能となります。
プロジェクトパートナー3社が開発した既存のプロトタイプをベースにした全身スキャナーには、液体レンズを備えたOptotune社製高解像度カメラが搭載される予定です。屈折率の異なる2種類の不混和流体をベースにしたこの新しいレンズは、これまでにない画質で全身を映し出すことができます。これらの画像と、機械学習を用いて取得可能なすべての患者データを統合することで、新しいダーモスコピー診断ツールの実現につながると考えられます。このツールは、迅速で信頼性が高く、かつ高度に個別化された診断を可能にし、臨床の場において最適な判断を下すために使用されることになります。
2008年に設立されたOptotune社は、マシンビジョン、顕微鏡検査、レーザー加工、ヘルスケア、自動車など、様々な分野向けの光学部品の開発と製造を行っています。同社のコアテクノロジーは、当初は人間の目の解剖学的構造に触発された焦点調整可能な液体レンズでした。
従来の光学系は、固体のガラスまたはプラスチック製レンズが前後に動くことでフォーカスやズームを調整する仕組みになっています。簡単に言えば、光がレンズを通過し、そのレンズが前後に動くことで光を特定のポイントに収束させますが、そのポイントより前後で光が収束すると、画像がピンボケになります。
しかし、人の目は、ピントを合わせるために湾曲する、弾性のあるレンズで構成されています。遠くを見るときは目の筋肉が緩み、レンズが薄くなります。逆に近くを見るときは目の筋肉が収縮し、レンズが厚くなります。
近くと遠くに焦点を調節する目の仕組み
Optotune社の焦点調整可能レンズは、弾性の高分子膜で密閉された光学流体で満たされた容器に基づいており、形状の変化が可能です。この高分子膜の中心部をリングで押し込むような形に焦点可変レンズが設計されています。このリングを高分子膜に押し込むことで生じるたわみを調整すれば、レンズの半径を変えることができます。このプロセスは、高分子膜の外側に圧力をかけるか、あるいは液体材料を容器から排出したり、逆に容器の中に注入したりすることで行われます。
焦点調整可能レンズには、従来の光学系と比較して、5つの利点があります。
iToBoSの構造は、MRIまたはCTスキャナーに似ています。患者は5つのアーチが設置されたベッドに横になります。各アーチには縦横に移動可能な3つのカメラモジュールが付いており、各カメラモジュールには以下の機器が装備されています。
iToBoS(左)およびカメラモジュール(右)のレンダリング
レンズには、技術仕様に加えて、満たさなければならないパラメータがいくつかあります。
iToBoSチームは、これらすべてのパラメータを考慮し、大型の電動フォーカスレンズでありながら小型でコンパクトな設計を取り入れているOptotune社のEL-16-40-TC液体レンズを採用することにしました。
Optotune社のEL-16-40-TC液体レンズ
左はカメラモジュールのレイアウトと性能特性(Ansys Zemax OpticStudioを使用)。右はカメラモジュールの光学機械設計。黄色の四角枠は液体レンズの収納位置を示す。
Optotune社は、レンズの様々な要件をテストするためにAnsys Zemax OpticStudioを導入しました。光学設計に液体レンズを使用する場合、ダイナミックな設計が必要です。このケースでは、患者とカメラモジュールの間の距離(作動距離)を350~650mmまでの範囲で調整し、中間距離を420mmにする必要がありました。液体レンズは他のレンズとは異なり、これらの異なる作動距離に応じて焦点を調整するのに大きく屈折力を変える必要はありません(+1ディオプター~-1.7ディオプター)。また、液体レンズが屈折力を調整するために必要な湾曲の変化のは、固定レンズの使用環境での調整に比べて非常に小さく済みます。
Ansys Zemax OpticStudioでシミュレーションされた液体レンズとスキャナーカメラの公称設計
レンズの性能については、ひずみ率が1.5%未満で、相対照度が70%以上であることが必要です。このレンズは、前述の3つの距離すべてでひずみ率が1%未満で、隅々まで95%の相対照度を達成していました。以下の図で、オレンジ色の点は、Otoptune社が達成したい公称品質を表しています。赤色の点は、最小の生産品質を表しています。公称設計は目標仕様を大幅に上回っています。しかし、iToBoSが要求する光学品質が非常に高いため、これらの要件を満たすのは困難でした。
公称設計を決定した後、Optotune社はレンズの実際の性能をシミュレーションしました。液体レンズはレンズの中に液体が入っているため、レンズに対する重力の影響を考慮しなければなりませんでした。レンズを垂直に保持するとレンズ内の液体が底に溜まり、これによってコマと呼ばれる現象が発生します。人間の目に起こるコマは、視力に影響を与えない程度に小さいのですが、光学系は非常に敏感であるため、結果として得られる画像にコマが影響を及ぼすことがあります。ほとんどの場合、この種の誤差は無視できる程度に小さいものの、ほくろや色素沈着がメラノーマかどうかを判断しようとする医師にとっては重要な問題です。
Optotune社は、OpticStudioでレンズへの重力の影響をシミュレーションしました。以下に、公称設計の結果(左)とコマ収差が性能に与える影響(右)を示します。結果は、青色のボックスで示された許容限界に収まらなくなりました。
Optotune社は、iToBoSのような極めて感度が高い光学系に対する重力の影響を補正するためにGCレンズを開発しました。このレンズは、通常の液体レンズと同じ技術を採用していますが、1つではなく2つの膜と2つの液体を使用しています。
Optotune社は、iToBoSにGCレンズを実装した後、重力による最大の残留コマとレンズの最大許容非点収差をシミュレーションしました。GCレンズは重力によって生じるコマのほぼすべてを補正しますが、製造公差が原因で、常に若干のコマが残ることになります。Optotune社のレンズは高次収差が非常に小さいのですが、非点収差のような低次収差がある程度現れます。Optotune社のチームがOpticStudioを用いてこの最悪のシナリオをシミュレーションしたところ、以下に示すように、レンズが3つの距離すべてで最小許容パラメータを満たすことが分かりました。
このレンズがシミュレーションで良好な性能を示したため、Optotune社はレンズのプロトタイプを作製し、いくつかのサンプルをテストしました。重力と非点収差による残留コマを伴う420mmの作動距離によるシミュレーション結果を選択し、iToBoSからの2つの測定結果と比較しました。OpticStudioでのシミュレーション結果は、スキャナーから得られた測定結果とほぼ一致し、生産の最低要件を満たしています。
Trioptics ImageMasterを使用した2つのサンプルのMTF測定
Optotune社とiToBoSチームは、色素性皮膚病変の経時変化を検出および診断する統合診断プラットフォームを実現するために、新しい皮膚スキャナーの開発に熱心に取り組んでいます。Optotune社は、その光学的な専門知識と世界クラスの光学レンズを提供することで、メラノーマの検出をさらに容易にしました。OpticStudioでレンズの光学性能をシミュレーションし、測定データと比較することで、液体レンズが必要な仕様を満たしていることが明らかになりました。iToBoSチームは、次のステップに進む準備を進めています。
Ansys Zemax OpticStudioが光学設計にどのように役立つかをご紹介します。