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Ansysブログ

February 12, 2024

電動モータ設計を次の段階に導く

自動車および航空業界から産業用途まで、現在、電動モータは大きな注目を集めています。しかし、電力レベルや信頼性など、広く採用されるまでにはまだ課題が残っています。Optiphase Drive Systems社では、大きな変革をもたらす革新的な5相モータを設計するために、Ansysを導入しています。 

電気自動車(EV)向けモータのエンジニアリングについては、電力を機械エネルギーに変換する3相モータが業界標準となっています。1889年にM. Dolivo-Dobrovolski氏がドイツのAEG社向けに発明した3相モータは、同じ周波数の3つの交流電流を利用して、車両に電力を供給できる電磁相互作用を発生させます。

3相モータは、EVの駆動装置のトラクションモータとして適しています。これらのモータの出力レベルは最大400kW、モータ回転速度は最大25,000rpmで、最大1,200rpmまでの車軸速度をサポートします。

3相モータの性能は優れていますが、制限もあります。たとえば、航空宇宙や重機などの次世代EVに必要なトルクと出力には、3相モータでは不十分です。また、フォールトトレランスも制限されています。3つの相のうち1つでも故障すると、モータはトルクを失い、停止します。さらに、最も一般的なEVトラクションモータソリューションでは、持続可能性の面で懸念点となるレアアース金属を含む高エネルギー永久磁石が採用されています。

Daniel Vicario氏とSiavash Sadeghi氏は、こうした制限に対応し、軽量車以外にもEVの採用を広げるために、Optiphase Drive Systems(ODS)社を設立しました。テキサス州を拠点とするこのスタートアップ企業は、業界を変える可能性のあるEV向けの5相モータを設計するために、Ansysの製品を活用しており、投資家と政府機関から高い注目を集めています。Ansysスタートアッププログラムは、より強力で信頼性が高く、持続可能性に優れたEVモータを開発する同社の取り組みを支援しています。

ODS wolf background

ODS社が開発中の統合システムのプレビュー。このシステムには、同社の5相モータとコントローラが1つのコンパクトな設計に統合されています。

5相電動モータ: 時代に適したアイデア

Vicario氏とSadeghi氏は、ガスタービンメーカーのCapstone Turbine社(現Capstone Green Energy社)で働いていました。2015年に2人が会社を退職したとき、モータ設計と起業家精神に対する共通の思いを持つ彼らは連絡を取り合うことにしました。Vicario氏はParker Aerospace社、そしてEaton社に移り、Sadeghi氏はHoneywell社、Supernal社、Hyperloop社で働きました。何年もの間、彼らは頻繁に連絡を取り合いました。

ODS社のCFOであるVicario氏は、次のように述べています。「Siavashが5相電動モータの設計を完成させようとしていることは知っていました。それはエネルギー業界の常識を覆し、社会に大きな利益をもたらす大きなアイデアでした。後は、適切なタイミングを待つだけでした。」

この革新的なモータ設計は、現在ODS社のCTOであるSadeghi氏がジョージア工科大学で電動モータの設計と制御の博士課程で研究を進めながら開発しました。Sadeghi氏は、次のように述べています。「博士課程の学生として、5相モータの概念について多くの研究を行い、プロトタイプを作製しました。卒業後は、時間があるときに改良を続けました。

最終的には、このテクノロジーの商業化が成功すると確信できました。Danielと2人で、これにコミットして追求する時が来たと実感しました。」

2017年の初頭、Vicario氏とSadeghi氏は、このアイデアで特許を取得し、製品化するためにODS社を設立しました。

車両電動化の大きな進歩を推進

5相モータは、3相モータと同じように動作します。ただし、トルクは相数に比例するため、モータ体積と電流が同じである場合は、トルクが15%以上増加します。ODS社の5相モータは、モータのサイズや重量を増やすことなく、出力が17%向上し、速度範囲が6%向上して、スイッチあたりの電流負荷が40%減少します。これは、3相モータと比較すると、大幅な改善です。こうした優れた仕様を有するEVモータは、幅広い高出力用途に適しています。

Sadeghi氏は、次のように述べています。「このモータがもたらす優れた出力とトルクは、新しい業界と顧客の開拓につながります。航空宇宙、防衛、海洋、建設、農業といった分野で利用される大型車両は、複数のモータを搭載することなく、電動化できるようになります。」Sadeghi氏が独自開発した制御アルゴリズム「ADAPTIV」は、出力密度を最大化しながら、各スイッチに必要な電流を最小限に抑えます。その結果、小型で軽量ながら非常に高い出力をもたらす設計が実現しました。

ODS社の5相モータは、現在の3相モータよりもはるかに優れたフォールトトレランスを備えています。5つの相のうち2つが故障しても、ODS社の5相モータはトルクを発生させます。これは、3相モータよりも信頼性が大幅に向上することを意味します。

元アメリカ海軍士官でパイロットでもあったVicario氏にとって、信頼性は非常に重要な問題です。Vicario氏は、次のように述べています。「アメリカ海軍で軍艦の長距離攻撃や偵察任務に就いていたとき、短絡による機器の故障が発生し、命を落としそうになったことがありました。だからこそ、信頼性の高い性能を重要視しています。遠く離れた場所を走行するファミリーカー、緊急事態に最初に向かう救援車両、高度な航空宇宙分野など、どのような用途のEVモータであっても故障は許容されません。当社の5相モータ設計は、故障リスクを大幅に減らします。」 

環境への影響は、電動モータにおいても重視される課題です。ODS社のEVモータは、独自の5相モータテクノロジーと設計により、レアアース金属の必要性が低減されています。Vicario氏とSadeghi氏によると、これは環境に対する責任を前提としている業界では重要な強みとなります。また、現世代の3相EVモータと比較して、コストを25%削減できると算出されています。

ODS loss chart

Ansysのツールを活用して製品化を推進

Vicario氏とSadeghi氏は、現時点では同社の5相モータ設計の全容を公開する意思はありません。しかし、すでに多くの重機メーカー、自動車メーカー、米国政府機関から注目されています。一例を挙げると、ODS社は先日、無人航空機システム(UAS)発電チャレンジの一環として、アメリカ空軍に自社テクノロジーを紹介しました。ODS社は提案書を提出し、航空宇宙業界の大手企業も複数社参加したコンペで審査を通過して、次の段階に進んでいます。

Sadeghi氏は、概念を推進し、性能を検証して、顧客と投資家の両方にその可能性を示すためには、エンジニアリングシミュレーションが不可欠であったと考えています。Sadeghi氏は、次のように述べています。「2022年後半には、テキサス大学ダラス校とパートナーシップを結び、物理的なプロトタイプモータを作製しました。シミュレーションでは、すでに設計が成功すると予測されていたため、驚きはありませんでした。物理的な概念実証は常に必要になりますが、シミュレーションによって、その実現までの時間とコストを大幅に節約できます。

シミュレーションがなければ、物理的なプロトタイプの作製と反復作業に数百万ドルを費やすことになりますが、それは私たちスタートアップ企業にとっては実現不可能です。Ansysを導入したことで、磁石のようなコンポーネントを反復的に微調整できるようになりました。これは初期に概念を実証するだけでなく、さまざまな顧客や業界の用途に合わせて基本設計を調整できるようにもなります。Ansysの幅広いツールキットは、電磁界と機械の性能を同時に確認して、トレードオフを検討できる点で優れています。」

Ansys and ODS

Vicario氏とSadeghi氏は、Ansysスタートアッププログラムを通じて、Ansysのソフトウェアを使用できる機会を得られたことに感謝しています。Vicario氏は、次のように述べています。「Ansysは、業界をリードする開発ツールを提供することで、文字通り、ODS社のような小さな会社の将来に投資しています。事業を立ち上げるときに、キャッシュフローはあまりありません。Ansysスタートアッププログラムにより、私たちは財務面でも支えられました。Ansysの支援がなければ、当社の5相モータが、さまざまな業界から注目を浴びることはなかったでしょう。」

Ansysスタートアッププログラムの詳細については、こちらをご覧ください。