Ansysは、シミュレーションエンジニアリングソフトウェアを学生に無償で提供することで、未来を拓く学生たちの助けとなることを目指しています。
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Ansysブログ
March 28, 2024
急成長する分野を専門的に学びたい、あるいはそうした分野でキャリアをスタートさせたい場合は、フォトニクス集積が最適な道かもしれません。この分野は力強い成長を見せています。最近の予測では、世界の光集積回路(PIC: Photonic Integrated Circuit)市場は、2028年までに304億ドルに達し、2023年から2028年までの年平均成長率は19.6%になると予想されています。
フォトニクス分野は、高速データ通信、結像、高度なセンシングなど、多くの光ベースアプリケーションの基盤となる光の粒子(光子)の物理科学と応用を扱います。さらに、フォトニクス集積とは、小型化され、チップ表面に集積されたフォトニクスを意味します。
フォトニクス集積デバイスの寸法は、通常はミクロン単位で測定されます(1ミクロンは1ミリメートルの1000分の1)。わかりやすい例を使うと、一般的に、爪は月に3~3.5ミリメートル伸びると言われています。つまり、技術的には、数千ものフォトニックデバイスを爪の先端に配置することも可能です。
当然ながら、人間の目には見えないフォトニックデバイスの設計は本質的に複雑です。そのため、非常に高い専門性とシミュレーションの両方が必要となります。
では、フォトニックデバイスを開発するためにミクロンスケールで設計するにはどうすればよいでしょうか。Spark Photonics社が、その答えを持っています。Spark Photonics社は、自社で培った設計に関する専門知識と光集積回路(PIC)設計ソフトウェアを提供する、スケーラブルなフォトニクス設計のためのワンストップショップです。設計を最適化し、将来のイノベーションをサポートするために熟練した専門家をトレーニングするための基礎として、Ansysスタートアッププログラムのサポートを受け、Ansysのシミュレーションソフトウェアを活用しています。
Spark Photonics社のCEOであるKevin McComber氏は、次のように述べています。「当社は、お客様のためにエンドツーエンドのPIC設計とレイアウトを行っています。最も基本的なコンポーネントから始めますが、その際にAnsysの製品を活用しています。設計の反復や新しいコンポーネントを考案するためにシミュレーションを使用しています。その後のレイアウト段階では、そうしたコンポーネントを使用し、回路を設計図に落とし込み、製造のためにファウンドリに送ります。また、Ansys Lumericalは当社のレイアウトソフトウェアともシームレスに連携するため、エンドツーエンドの優れた設計フローが構築されます。」
McComber氏によれば、フォトニクス集積を他の分野まで拡大し、それを中心として新しい用途を開発するという大きな動きがあり、大きなビジネス機会となる見込みです。しかし、ミクロンレベルでの製造には固有の複雑さが伴うため、適切なソフトウェアがなければ困難になります。
Spark Photonics社のフォトニクス設計エンジニアであるCooper Hurley氏は、次のように述べています。「私たちは、目では検証できないフォームファクターで数千ものコンポーネントを設計しています。設計しているこれらのコンポーネントは、特定のタスクを実行するだけでなく、さまざまな光の波長で動作する必要があります。シミュレーションは、こうした構造を可視化および作成し、ソフトウェア内で信号を作成して、コンポーネントスケールでデバイス性能をシミュレーションするのに役立ちます。」
同社での作業は非常に厳しいものであり、設計反復を高速化するためにAnsysのさまざまなツールやソルバーが必要です。そこから、非常に具体的なの光の波長または周波数で動作する結果のコンポーネントを、お客様のニーズに合わせて特定の状況に適応させます。ある周波数で動作するコンポーネントを別の周波数で動作させるプロセスは比較的簡単であるように見えますが、実際は設計上の多くの考慮事項を伴う反復的な最適化プロセスです。
シミュレーションやAnsysスタートアッププログラムのサポートがなければ、物理的なプロトタイプを使用してこのようなテストと反復作業を行うことは、コストがかかりすぎます。Ansysスタートアッププログラムは、カスタムバンドルしたシミュレーションソフトウェアを手頃な価格で提供しています。これにより、Spark Photonics社のようなアーリーステージからミドルステージに位置するスタートアップ企業でも、複雑なエンジニアリングの課題を解決するために必要なツールやソルバーを利用できるようになります。
たとえば、同社のワークフローでは、Ansys Lumerical Multiphysicsフォトニクスコンポーネントシミュレーションソフトウェアが重要な役割を担います。設計チームは、Lumerical Multiphysicsを使用したことで、設計を最適化するために必要な回数の反復をコンピュータ上ですばやく実行してから、最終的な設計を決定できるようになりました。
一方、PIC設計の物理的なプロトタイプの作製はコストがかかります。用途によっては、チップ1個あたりの開発に数千ドルのコストがかかることもあります。Lumerical Multiphysicsを使用することで、設計を仮想的に最適化してテストすることで、最終的な検証と妥当性確認に必要な物理プロトタイプの数を大幅に削減できます。
Spark Photonics社のサービスモデルには、プロセス設計キット(PDK)の開発サービスもあります。PDKは、設計者がファウンドリテクノロジーで設計できるようにする一連のドキュメントおよびテクノロジーファイルです。つまり、PDKを使用することで、特定のファウンドリテクノロジーを使用できるようになります。
PDK内には、多数の項目があります。ユーザーが従う必要がある設計ルールや、設計ツールをPDKと連携できるようにするソフトウェアファイルなど、このテクノロジーに関するドキュメントがあります。また、特定のアプリケーション向けに製造およびテストされたものが多い、事前設計かつ事前検証されたコンポーネントのライブラリもあります。
このライブラリにアクセスできることで、すべてのコンポーネントを一から設計することなく、確立された一連のルールに基づいて既存のコンポーネントを回路に組み込むことができます。
2020年以降、Spark Photonics社は、ニューヨーク州北部に拠点を置くフォトニクス集積のファウンドリであるAIM Photonics向けに、PDKライブラリを開発しています。先日、AIM Photonicsは2つ目となるSpark Photonicsライブラリのリリースを発表しました。このライブラリは、AIM Photonicsの窒化ケイ素プラットフォーム上で提供されたことで、設計者は化学センシング、原子時計、量子コンピューティングなどの多様なアプリケーションで700~1300ナノメートルの波長範囲にアクセスできます。
これはもちろん、Spark Photonics社とAIM Photonicsのお客様が、時間とコストを節約しながら、フォトニクスデバイスの開発を初回から成功できるように支援することが目的です。
McComber氏は次のように述べています。「当社のAIM Photonicsコンポーネントライブラリの大部分は、Ansysを使用して開発されており、今後も同じように開発を進めていく予定です。このライブラリには、スプリッタ、カプラー、導波路などの重要なデバイスが含まれています。ユーザーは、設計済みであり、多くの場合は製造済みおよびテスト済みのコンポーネントを、より大規模な設計に組み込むことができます。そのため、すべてを自社で設計する必要がなく、導波路を用いてコンポーネントを接続し、回路の動作を確認して、レイアウトと製造に進むだけで済みます。」
McComber氏は、Ansysのサポートを受けて、予算内で複雑な設計上の課題を解決できました。しかし、フォトニクスに特化したトレーニングを受け、専門知識を有する技術者を集めるのにもAnsysのツールは役立つのでしょうか。その取り組みの鍵となるのは、教育とシミュレーションです。
業界の人材育成に対する切迫したニーズを受けて、McComber氏は独立した団体であるSpark Photonics Foundationを設立しました。この財団は、501(c)(3)非営利団体として米国政府からの資金提供を受け、「SparkAlpha」と呼ばれるプロジェクトベースの学習プログラムを通じて、幼稚園から高等学校の生徒や大学生向けに、半導体およびフォトニクステクノロジーを使用したSTEMおよび高度な製造の概念を教えています。Spark Photonics社は、Ansysの支援を受けながら、マサチューセッツ州で500名を超える学生にこの学習プログラムを提供しています。
McComber氏は、次のように述べています。「この財団は、AnsysからSparkAlphaプログラムを拡張するための企業寄付という形で資金提供を受けました。その一部は、プログラムを運営する教師陣のトレーニングに使用される予定です。」
学生は、SparkAlphaプログラムを通じて、化学センシングやマシンビジョンなど、フォトニクス集積アプリケーションにアクセスできます。また、地元の大学や半導体サプライチェーンに属する地元の企業を直接またはオンライン上で訪問する機会も含まれています。トレーニングの最後には、学生たちが各自のアイデアを共有して評価し合う「Shark Tank」のような学生コンテストも開催されます。この財団は、Pythonコーディングとそれを使用してフォトニックチップを設計する方法を学生に教えるSparkBetaプログラムも立ち上げる予定です。
では、この財団の取り組みにおけるシミュレーションの役割とは何でしょうか。SparkAlphaとSparkBetaでは、近い将来、Ansysのシミュレーションを教室に導入することで、学生が仕事で活用できる洞察やスキルを得られるようにしたいと考えています。
Spark Photonics Foundationの教育アウトリーチプログラムディレクターであるRobert Vigneau氏は、次のように述べています。「提携校との話し合いから学んだ教訓の1つは、最近の製造業の仕事が正しく理解されていないことです。シミュレーションを通じて、「製造とは何か」に対する学生の理解が広がると考えています。Ansysのシミュレーションに触れることで、まったく新しい視点を得ることになるでしょう。シミュレーション環境では、製品を仮想的にモデル化してテストできるため、高度な製造施設で製品を生産するプロセスが明らかになります。」