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Ansysブログ

November 28, 2022

Tata Steel Nederland社、シミュレーションにより製鉄プロセスを改善

製鋼プロセスの大半の工程は、高温で行われます。鉄鋼メーカーでは極めて高い温度を扱うため、必要とするエネルギー量やメンテナンス回数は増え、作業者の安全を脅かすリスクも高くなります。このような競争上のプレッシャーに対抗するには、より安全で費用対性能に優れた製造シナリオを実現する、製造プロセスの慎重な調整と設備設計の最適化が必要です。

ヨーロッパを代表する大手鉄鋼メーカーの1つであり、世界各国に子会社を展開しているTata Steelグループに属するTata Steel Nederland(TSN)社は、それまでのトライアンドエラーの生産アプローチを廃止して、デジタルテクノロジーをベースにした信頼性の高いアプローチを採用しました。Ansysは、このアプローチに移行する上で重要な役割を担いました。

Tata Steel in Ijmuiden copywrited

Tata Steel Nederland社のIJmuiden製鉄所。

材料工学および数学モデリング(MEM)グループのナレッジグループリーダーを務めるSido Sinnema博士は、高温の材料の取り扱いおよび数値モデリングで長年の経験がある研究者や専門家で構成されたチームを率いています。この記事では、Bruno Luchini博士とPaul van Beurden博士とともに、こうした過酷な環境でAnsysのシミュレーションツールを活用する方法について説明します。

Tata Steel Nederland社の製鉄、製鋼、および鋳造の研究開発部門の主任研究員兼プロジェクトリーダーであるLuchini博士は、次のように述べています。「当社では、シミュレーションの一環として、プロセスおよび設備の最適化や根本原因解析のために、いくつかのシナリオを評価しています。Ansysのツールを使用してマルチフィジックスシミュレーションを実行することで、プラント内に存在する個別の材料や機器の故障メカニズムをより適切に評価できます。」

Tata Steel Nederland社の製鉄、鉄鋼、および鋳造の研究開発部門の主任研究員兼プロジェクトリーダーであるvan Beurden博士は、次のように述べています。「耐火炉材で生じる温度変化の速度と応力の関係を調査するための高度な有限要素法(FEM)による熱機械モデルを開発するために、Ansys Mechanicalを使用しています。これらの関係をモデル化することで、損傷リスクを最小限に抑えながら、熱処理工程を最適化できます。」

温度を解析

Tata Steel Nederland社での課題は、スラブ再熱炉のメンテナンスです。メンテナンスのために炉を長時間停止させる場合は、冷却する必要があります。再熱炉は華氏2,370度で運用しているため、単に停止しただけでは熱衝撃が発生し、炉材に亀裂が生じます。炉を再加熱する場合も同様で、どちらも慎重な作業が必要です。コストのかかる損傷を避けるためには、温度を徐々に変化させる必要があります。また、炉の冷却や加熱が遅すぎても、製造時間の面で大幅な損失が生じます。

炉の温度変化速度と耐火炉材の損傷および応力の関係を理解する上で、Ansysのシミュレーションが重要な役割を担いました。Tata Steel Nederland社では、実験室で耐火炉材の材料特性を測定し、熱電対を使用して炉材の温度を測定しました。これらを炉の熱機械モデルに組み込むことで、発生する応力を計算できるようになり、通常の加熱および冷却工程の物理現象より深く理解できるようになりました。

このシナリオでは、Mechanicalを使用して、加熱速度または冷却速度を増減したときの物理現象を解析しました。これにより、冷却時間と加熱時間を最小限に抑えることができます。その結果、MEMチームは炉のダウンタイムを年間で400時間短縮し、鋼製品の生産能力を5%以上向上させながら、燃料ガスの消費量とCO2の排出量を大幅に削減できました。

生産プロセスの上流工程では、鋼鉄の中間製品である液体銑鉄(または溶銑)の製造と輸送が行われます。プロセス制御を改善し、液体溶銑の製造の信頼性を高めるためには、任意時点での温度を予測できることが必要です。Mechanicalで作成され、熱電対による測定で実証されたFEM熱プロセスモデルを使用して、製造設備の温度場をシミュレーションし、液体金属の温度を導き出すことができます。しかし、このようなFEMモデルは計算に長い時間がかかるため、リアルタイムでプロセス運用に適用するには限界があります。

代わりに、FEMモデルのシミュレーション結果に基づいた次数低減モデル(ROM)を使用しました(参考として、1秒(ROM)に対して2時間(FEM)、温度差は0.1℃以内)。ROMは、忠実度の高いシミュレーションを活用してリアルタイムでプロセス運用を最適化できるデジタルツインソリューションの重要なコンポーネントです。

Blast furnace and torpedo copywrited

高炉から製鉄所へ輸送される魚雷型取鍋車

Ansysのシミュレーションを日常的に使用

Tata Steel Nederland社では、Ansys SpaceClaimAnsys FluentAnsys CFXAnsys Maxwell、およびMechanicalを含む、合計7つのAnsys製品を使用しています。また、長年にわたって熱機械分野でAnsys Parametric Design Language(APDL)を使用しており、現在でもAPDLで複雑な機能が実行されるモデルが維持されています。最近、MEMチームはAnsys WorkbenchAnsys Twin Builderを使い始めました。これらの製品の使用状況を解析した結果、根本原因解析、プロセスおよび機器の最適化、新しい設備設計の3つの異なるワークフローに分けました。

根本原因解析

MEMでは、プラント内で特定の設備が特定の挙動を示す理由をより深く理解する、あるいは特定のコンポーネントの故障を評価するために、根本原因解析ワークフローにシミュレーションソフトウェアを使用しています。シミュレーションを導入することで、ジオメトリ、材料特性、境界条件に関する情報を収集できます。収集したデータを使用して、機器運用中に発生し、故障につながるシナリオを仮想的に再現します。モデルの実証が完了すると、設計の寸法、材料、およびプロセス条件を変更して、設計の現在の性能を評価して、適切な設計改善を導き出すことができます。

Sinnema博士は、次のように述べています。「このアプローチを採用したことで、高炉内の冷却板を交換するためのメンテナンス規則について検討できるようになりました。これまでは、メンテナンスの制限事項によって、すべての冷却板を一括で交換することができませんでした。しかし、FEMモデルを使用したことで、より安全で信頼性の高い運用のために冷却板の交換の優先度を容易に設定できるようになりました。」

プロセスと機器の最適化

Tata Steel Nederland社では、プロセスと機器の最適化にもAnsysの製品を活用しています。このシナリオでは、機器の仮想モデルを作成しました。MEMチームはパラメトリックアプローチを採用して、主要なパラメータを特定し、主要なプロセスと機器の両方を完全に最適化するために必要なプロセスパラメータを微調整しました。これらの仮想モデルは汎用性が高いため、多数のシナリオを検討しながら、運用プラントでのコストのかかる物理的な実験の必要性を減らすことができました。

新しい設備設計

新しい設備設計は、Ansysの製品を活用している3つ目のワークフローです。ここではシミュレーションを使用して、改善を提案する前に、多数のシナリオを実行してサプライヤーの設計を確認しました。このプロセスは、同社の新しい再熱炉の設計にとって不可欠でした。MEMチームは、高温の影響を正しく理解できるように、炉を稼働する前に、収集した情報を使用して何度か解析を実行しました。プロジェクトの評価段階では、材料選択をサポートするために、いくつかのFEMモデルを使用して、温度分布と熱損失を正確に予測しました。

デジタルツインでシミュレーションを活用してリアルタイムでプロセス運用を改善

製造プロセスで生じるエネルギー損失に加えて、魚雷型取鍋車(特殊な輸送容器)での液体銑鉄の輸送中にも多くのエネルギー損失が生じます。輸送中のエネルギー損失をなくすために、デジタルツインを使用してプロセス全体をモデル化し、最適な輸送シナリオを評価するために調整できる速度と対象のプロセスパラメータを決定しました。

Sinnema博士のチームにとって、エンジニアリングシミュレーションツールを活用する上でデジタルツインテクノロジーを導入することは当然の結果でした。これまでは、プラント内の個々の機器について別々のモデルを作成していたため、当然ながら、最適化も最善なものではありませんでした(局所最適化)。デジタルツインテクノロジーにより、同社はプロセス全体を最適化して、製造プロセス内の個々の機器をすべて接続し、プロセスをより詳細に評価できるようになりました。こうしたテストを実行することで、機器の特定部分の変更が他の部分に与える影響を明らかにし、よりクリーンで環境に優しい製造プロセスを実現できるようになります。

冷却中の空の魚雷型取鍋車の内部。

Luchini博士は、次のように述べています。「デジタルツインと、スマートセンサーなどの他のテクノロジーイノベーションを組み合わせることで、プラントのエネルギー効率を活用して、脱炭素化目標を達成できるようになりました。」

Tata Steel Nederland社では、石炭を水素に置き換えるという、かつてないほど大きな変容を遂げようとしています。同社では、2030年までに直接還元プラント(DRP)と電気還元炉を導入して、CO2排出量を約30~40%削減することを目指しています。

Van Beurden博士は、次のように述べています。「このような機器のコミッショニングや、他の機器の廃棄を計画するのは容易な作業ではありません。車の走行中にタイヤを交換するようなものです。繰り返しになりますが、シミュレーションテクノロジーは新しいプロセスの設計にとってまさに不可欠です。」

Tata Steel Nederland社の専門家によるオンデマンドウェビナー「Tata Steel Nederland社が目標を達成する上でデジタルツインは大変革をもたらす」をご覧ください。  

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