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Ansysブログ

March 11, 2024

核融合エネルギーの活用

英国原子力公社(UKAEA)が、クリーンエネルギー生産に必要な核融合をモデル化するためにシミュレーションをどのように使用しているかをご覧ください。

原子力発電所の4倍のエネルギーを生成し、石油や石炭の燃焼よりも400万倍近いエネルギーを生成することができるものは何でしょうか?国際原子力機関によると、それは核融合エネルギーです。核融合反応は、2つの軽い原子核が衝突してより重い原子核を形成した結果として起こります。これらはすべて、正イオンと自由移動電子の高温の荷電ガスであるプラズマ内で発生し、その過程で大量のエネルギーが放出されます。これは基本的に、太陽やその他の星にエネルギーを供給する反応と同じものです。

UKAEAの科学者は、自然界に発生する核融合を、狭い空間の中で極端な高温状態のもと再現しようとしています。UKAEAでは、英国で持続可能な核融合エネルギーを推進するために、核融合と関連技術の研究に取り組んでいますが、それが成功するかどうかは、重水素とトリチウム(水素の同位体)を融合させてヘリウムを形成し、それによってエネルギーを中性子として放出することができるかどうかにかかっています。

核融合の実現には時間がかかりますが、それだけの価値があります。実現すれば、膨大な量のクリーンエネルギーが得られ、大きなメリットがもたらされます。他のエネルギーソリューションとは異なり、核融合は2つの豊富な水素由来の資源に依存しています。重水素は海水から容易に抽出でき、トリチウムは融合炉内部で生成できます。核融合反応は、開始させるのは困難ですが、非常に簡単に停止させることができます。これは、過去に原子力施設で危険な暴走反応を引き起こしていた核分裂に代わる、はるかに安全な代替手段と見なされています。

UKAEAの科学者は、核融合を実用化する前に、いくつかの大きなハードルを克服する必要があり、広範なテスト、稼働中の診断、定期検査に依存できないなど、核融合装置の構築と保守の複雑さに対処しなければなりません。完全な成功を収めるには、過酷な環境での現場モニタリングに基づく広範囲の仮想テストと予知保全を行う必要がありますが、これは、Ansysのシミュレーションソフトウェアを使用すれば可能になります。

シミュレーションにより、より優れた核融合試験装置を構築

UKAEAでは主に、統合型加熱・磁気研究装置(CHIMERA)、すなわち物理的な試験装置を構築することを目指しています。この試験装置は、核融合発電所を再現した環境でメートルスケールのプロトタイプ部品をテストできるように特別に設計されています。CHIMERAでは、真空下に置いた部品に高温、高熱流束、磁気荷重、熱サイクル、およびその他の故障モードを同時に適用し、核融合炉内の部品の挙動を把握することができます。 

test rig of a reactor called CHIMERA

UKAEAでは、CHIMERAと呼ばれる融合炉の試験装置を構築するとともに、シミュレーションを用いて、その出力を最適化している。

CHIMERAは現在製造中です。UKAEAはこれまで事前のシミュレーション作業なしにプロトタイピングとテストを行ってきましたが、現在、Ansysのソフトウェアを使用し、従来の手法を改めようとしています。最優先事項は、仮想環境での核融合を促進するために必要な高い温度と圧力を維持する条件を整えることでした。仮想環境やシミュレーションがない場合、反復的なテストおよびプロトタイピングはリソースと時間の両方の点で費用が嵩み、効率的ではありません。

試験装置を効果的に運用するには、試験装置をモデル化してから、関連するさまざまなマルチフィジックス荷重条件を適用し、試験部品の挙動を把握しなければなりません。UKAEAのシミュレーション研究担当エンジニアデータアナリストであるMichelle Tindall氏は、各部品の挙動を把握するために、Ansys Twin Builderを用いて、核融合部品のデジタルツインの作成に取り組んでいます。今後は、シミュレーション環境内でCHIMERAの部品を仮想的にテストおよび監視する予定です。デジタルツインとは、指定された頻度と忠実度で同期される、実世界のエンティティやプロセスの仮想的表現です。

システムモデル、すなわちCHIMERAのデジタルツインを作成するには、データフローを通じて動的に更新される物理モデル(CHIMERA)を計算モデルと連成する必要があります。計算モデリングは、試験装置のテストの対象となるCHIMERAのさまざまな部品のシミュレーションを行うことで可能になります。最終的には、物理的な計装からのデータとシミュレーションを組み合わせて作成した部品のデジタルツインを使用することで、将来の融合炉の予知保全をサポートする仮想的なリアルタイム診断を実現することができます。

Tindall氏は次のように述べています。「CHIMERAのシミュレーションを使用して実験を設計し、その出力結果の有用性を最大限に高めることで、シミュレーションモデルの信頼性と精度を高めていきたいと考えています。こうすることで初めて、モデルの信頼性を十分に確保し、仮想テストを実施できるようになるのです。」

EMモデリング

左:テスト中のCHIMERAコミッショニングサンプル。右:このサンプルのマルチフィジックスシステムシミュレーション(UKAEAがAnsys Twin Builderを使用して実施)。

2億度の仮想テスト

主要な融合炉設計の1つは、制御された核融合電力を発電する融合炉の内部に磁気コイルを装備したドーナツ型燃焼室であるトカマク型融合炉です。トカマク型融合炉内の磁場は、非常に高温の複数のプラズマ粒子を真空容器内に閉じ込め、最終的に結合させてエネルギーを生成する役割を担います。

チームの最優先事項は、トカマク型融合炉の部品がプラズマの近くでどのように機能するかを理解することでした。というのも、これらの部品は、高負荷、高熱流束、および冷却材ループ流を特徴とする比較的過酷な環境に耐えなければならないからです。プロトタイプの発電用トカマク型融合炉には、融合炉環境でのみテストできる荷重ケースと運転条件が伴います。

Tindall氏は次のように語っています。「私たちは、トカマク型融合炉の真空容器内で、非常に高温のプラズマの近くに位置する部品を調べていますが、プラズマの温度は1億~2億度に達するため、部品をプラズマと接触させることはできません。容器内の部品はまだ、商用融合炉を再現した条件でテストしたことがないため、核融合エネルギーの商業化を目指す場合には、それらの条件を仮想環境で再現することが非常に重要です。」

 temperature variation across front of commissioning sample

テスト中のコミッショニングサンプルの前面全体における温度変化の例(UKAEAがAnsys optiSLangを使用して得た質量流量および熱/応力ピーク値に基づいて示したもの)。

水流回路の流れのループを閉じる

現在、UKAEAは、CHIMERAに設置される最初の部品である水流回路を含むテスト中のコミッショニングサンプルに関するシミュレーション作業に取り組んでいます。コミッショニングとは、発電所、研究機械、燃料サイクル施設のすべてのシステムおよび部品を稼働させ、それらの運用健全性を検証するプロセスです。このプロセスにより、すべての部品が元の設計と整合し、すべての安全および性能基準を満たしているかどうかを確認できます。

Tindall氏は次のように述べています。「重要なのは、Twin Builderを使用して、多くの要素を結びつけることで、迅速にマルチフィジックスモデルを作成し、さまざまな結果を把握できるということです。これにより、基礎となる有限要素法モデルだけでは効率的に達成できない確率論的なシミュレーション設計研究と有限要素法解析が可能になります。」

解析に電磁界シミュレーションソフトウェアAnsys Maxwellを利用した様子などの詳細については、最新のケーススタディをご覧ください。