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Ansysブログ

March 27, 2024

ポッドキャストで紹介された、シミュレーションがクリーンな水素ソリューションの推進に与える影響 

気候変動、二酸化炭素(CO2)排出量、およびその他の環境汚染物質に対する懸念が高まる中、化石燃料に代わるクリーンな燃料として水素を検討する業界が増えています。 

水素燃料は、水を電気分解(水素を放出)するための再生可能エネルギー源で製造すれば、CO2排出量をゼロに抑えることができます。しかし、水素の製造には、安全性、コスト、スケーラビリティなどの課題や懸念もあります。

エンジニアリングシミュレーションは、新規および既存のテクノロジーを開発することでクリーンな水素製造を改善する最適な方法の1つとして注目されています。実際に、国際エネルギー機関(IEA)は、主要テクノロジーの強固な研究開発なしには、排出量のネットゼロを達成することはできないと述べています。

最近、英国に拠点を置くメディアプラットフォームのポッドキャスト「Hydrogen Industry Leaders(HIL)」(水素業界のリーダー)では、Ansysのエンジニアをゲストとして招き、シミュレーションがこの分野でどのようにイノベーションを推進しているかについて議論しました。このプラットフォームは、ネットゼロの世界に向けて水素ソリューションを開発する方法についての洞察を提供することを目指しています。シミュレーションに特化したエピソードで、Ansys Customer Excellenceの特別上級エンジニアであるPepi Maksimovicは、物理ベースのシミュレーションが水素製造の研究開発において重要な洞察をもたらし、安全性の確保、テクノロジーに対する信頼性の向上、コストの削減、スケーラビリティの向上に役立つことを説明しました。

Pepi Maksimovic

Pepi Maksimovic(Ansys Customer Excellence、特別上級エンジニア)

以下の「Hydrogen Industry Leaders」ポッドキャストのエピソード「Physics-Based Simulations and the Role They Play in Growing the Hydrogen Economy」(物理ベースのシミュレーションと水素経済の成長におけるその役割)をお聴きください。

より安全なエネルギー転換のシミュレーション

HILポッドキャストシリーズは、世界中からエキスパートを招き、専門家の意見を共有しています。各エピソードでは、水素製造、安全性、貯蔵、および関連トピックに焦点を当て、エネルギーセクターを変革するために、さまざまな業界やセクターがグリーンテクノロジーへの転換をどのように提唱しているかを知る機会となっています。

エピソード23「Physics-Based Simulations and the Role They Play in Growing the Hydrogen Economy」では、HILのホストを務めるFloyd March氏がAnsysのMaksimovicを迎え、シミュレーションの役割について話しました。データと科学に裏打ちされた物理ベースのシミュレーションは、熱、流体、化学反応、構造の振る舞いなどのエンジニアリングダイナミクスを具体的に考慮しながら、水素製造プロセスを解析およびテストするのに役立ちます。このように、シミュレーションは、コンピュータ上での仮想テストを活用して、実機試験やプロトタイプ作製に必要なコストと時間を削減しながら、研究開発チームが他の方法では調べることができなかった現象を安全にテストおよび解析するのに役立ちます。

Green hydrogen

グリーン水素は、化石燃料の使用を除き、水電解を用いた持続可能な方法で製造されます。

現在のエネルギー転換の目標は、化石燃料ベースのエネルギーソリューションから、再生可能エネルギー、原子力エネルギー、水素などの排出ゼロ/低炭素ソリューションへの移行の必要性に基づいています。この転換を実現するために、IEAは技術開発の重要性を強調しており、2070年までに計画されたSustainable Development Scenario(持続可能な開発シナリオ)で示されたCO2排出量の約35%の削減が、現在プロトタイプレベルまたはデモンストレーションレベルにあるテクノロジーに起因しており、さらなる研究開発がなければ、大規模に前進することはできないと述べています。IEAはまた、これらの目標排出量のさらなる40%の削減は、マスマーケット向けアプリケーションではまだ商用でないテクノロジーに依存していると主張しています。

Maksimovicは、シミュレーションを使用して、既存のテクノロジーを改善すること、さらには研究開発イノベーションを通じて新しいテクノロジーを開発し、それを加速させること、という2つの大きな目的に対処する方法を説明しました。

シミュレーションを使用することで、最適な性能、安全性、環境への影響を保証する詳細な解析を通じて、製造だけでなく、貯蔵、流通、利用など、水素バリューチェーンの残りの部分も最適化できます。

EMモデリング

Ansysのシミュレーションソフトウェアが水素バリューチェーンをどのように支えているのかをご紹介します。

シミュレーションで水素のハードルを乗り越える

化石燃料の使用を完全に排除するグリーン水素の製造コストは、大規模な導入においては極めて高いままです。エンジニアや研究開発チームが、カーボンフリーのグリーン水素の製造能力、効率、コスト競争力を向上させる方法を模索する中で、低排出の水素による他の代替案も並行して検討されています。

その一例として、炭素回収テクノロジーを応用して、化石燃料からブルー水素を製造する際に発生する炭素排出を回収して除去する方法があります。

他の企業は、ターコイズ水素などの代替案を模索しています。このタイプの水素製造は、天然ガスを水素ガスと固体炭素に変換します。固体炭素は、CO2を排出しない電気自動車(EV)用のバッテリに使用することができます。

シミュレーションは、予測精度や無限の解析機能など、研究開発を大幅にサポートします。たとえば、Ansys Fluent数値流体力学(CFD)解析などの高度なソフトウェアパッケージを使用することで、研究開発チームは、実機試験の能力を超えることが多い、さまざまな複雑な流体現象を詳細レベルで正確かつ効率的に解析できます。解析対象となる現象には、熱伝達、物質移動、化学反応、燃焼などがあります。

Fluent simulation

Ansys Fluentが提供する数値流体力学(CFD)解析および機能により、水素製造の研究開発における新たな可能性を引き出します。

Maksimovicは、クリーン水素製造への業界の幅広い移行には時間とテクノロジーが必要であると指摘しています。クリーン水素が広く採用されるためには、製造能力の大幅な増強と許容レベルまでのコストの削減が必要であり、研究開発の重要性が改めて強調されています。

機器の設計は、シミュレーションが重要な洞察をもたらす、もう1つの分野です。エンジニアや設計者は、Ansys Granta Selectorのようなツールを使用することで、技術的および環境的な性能を向上してコストを削減できる、より適切な材料を選択できるようになり、Ansys Mechanicalを使用することで、機器の構造健全性を確保できるようになります。

Mechanical on computer

エンジニアや設計者はAnsys Mechanicalを使用することで、水素製造時の熱特性を解析して、機器設計全体での構造健全性を評価できます。

Granta Selector homepage

研究開発チームはAnsys Granta Selectorを使用することで、環境基準を満たしながら設計を改善できる、持続可能性に優れた材料を発見できます。

Maksimovicは、次のように述べています。「電解槽自体だけを見ても、最適なセルを設計する方法、セルをスタックする方法、熱や加熱の分極曲線を理解するためなど、シミュレーションを利用する機会はたくさんあります。エンジニアや設計者が日常的に取り組む必要がある課題は、どれもシミュレーションを活用する機会になります。」

水素が広く採用される上でもう1つハードルとなるのは、安全性への懸念です。一部の懸念は、エネルギー源としての水素に馴染みがないことに起因していますが、他の懸念はより具体的です。可燃性が高く、着火エネルギーが低い水素は、ガソリンや天然ガスよりも早く着火し、取り扱いを誤ると火災につながる危険性があるため、安全上の懸念が生じます。こうしたリスクを軽減するために、政府機関や規制団体は、可燃性ガスの貯蔵、着火源、燃料ガスの通気管からの安全な距離など、水素の取り扱いに関する安全基準を定めています。また、従業員のオフィスや人々が集まる場所からの安全な距離を確保するための追加のガイドラインがあります。

Maksimovicは、シミュレーションが水素製造プロセスのリスクを軽減しながら、より広い規模で懸念を軽減するのに役立つと述べています。

「製品を市場に投入する前に、設計、妥当性確認、検証を行いながら、物事がどのように振る舞うかに関する洞察を得て、プロセス自体を理解し、物理的な機器がどのように振る舞うかを理解することで、製品メーカーはリスクを軽減できます。それだけでなく、基本的なリスクの軽減もあります。設計の過程でどれだけの注意が払われ、高い安全性が確保されているかを理解すれば、人々が日常的な水素の使用を受け入れるのにも役立ちます。誰もが安全で信頼できることが証明されたものを使いたいと考えているでしょう。」

世界規模での水素の採用に向けた展望

シミュレーションは、エネルギー、自動車、航空宇宙などを含め、さまざまな世界市場や業界における水素の研究開発に導入されています。

Maksimovicは、水素のスケーリングにおけるコスト削減が、より幅広く採用されるための鍵であると考えています。この目的に向けて、エネルギーを管轄するいくつかの政府機関が、コスト削減のための目標プログラムを発表しました。たとえば、米国のエネルギー省が打ち出したEnergy Earthshots Initiative(エネルギーアースショットイニシアチブ)(別名、「111」プログラム)は、10年以内に、水素1キログラムあたりのコストを1ドルまで削減することを目指しています。

この分野向けのAnsysのソリューションの詳細については、「シミュレーションによる水素バリューチェーンの強化」を参照してください。