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Ansysブログ

February 15, 2024

Infinitum社: より効率的で持続可能な未来のために設計されたモータ 

現在、世界中で何十億機もの電動モータが動力源として使用されていますが、そうした電動モータは世界の電力の半分以上を消費しています。そして、この電力のほとんどが、CO₂排出量の多い石炭火力発電所から供給されています。つまり、モータ効率を向上させることで、脱炭素化に向けたグローバル規模での取り組みを大幅に前進させ、電気自動車への移行を加速させることができます。

こうした理由から、テキサス州を拠点とするメーカーのInfinitum社は、従来の鉄芯モータよりも軽量でエネルギー消費量が少なく、排出量が少ない次世代モータを開発しました。 

同社は、Ansysスタートアッププログラムを通じてAnsys FluentAnsys Maxwellを導入し、モータの開発に成功しました。同社の製品ポートフォリオにわたって採用されている空芯テクノロジーは、同じ出力を持つ従来のモータと比較して、50%の小型化および軽量化、製造時の二酸化炭素排出量の約20%削減、そして10%の効率向上を実現しています。

重量と排出量の削減

空芯の軽量化と排出量の削減は、プリント回路基板(PCB)ステータテクノロジーによって実現しました。

ステータとは、AC電流が印加されると回転磁場が発生する電動モータの静止部品です。大半のステータは、鉄芯の積層スタックと、「巻線」と呼ばれる絶縁ワイヤー(通常は銅)のコイルで構成されています。

鉄芯は、100年以上前に電動モータが発明された当初から採用されてきましたが、決して完璧なものではありません。まず、鉄芯は重量があります。また、鉄鉱石の採掘は環境に優しいプロセスではありません。

さらに、鉄芯ステータは、鉄損(誘導される渦電流とヒステリシスに関連するエネルギー損失)、トルクリップル(トルク出力の周期的変動)、およびコギング(ガタガタとした動きを生じさせる望ましくないトルク成分)といった性能上の問題を引き起こします。

Infinitum社は、ステータから鉄芯と銅巻線を排除し、2つの磁気ロータ間に配置した特許取得済みのPCBステータで置き換えることで、モータのサイズに対する性能比を向上させ、重量を減らし、トルクリップルおよびコギングの影響を軽減して、渦電流損失を抑制しました。この設計では、磁束は一方のロータともう一方のロータの間を移動しますが、その経路に鉄芯が存在しないため、「空芯」と呼ばれています。鉄を排除し、モータ内の銅の量を減らすことで(ステータで機能的に必要となる部分には銅巻線が使用される)、資源の使用量を減らし、採掘による悪影響を軽減できます。これにより、モータ製造時の二酸化炭素排出量が約20%削減されました。

Caterpillar alternator

高効率、低重量の交流発電機

損失の定量化

渦電流は、効率低下につながる無駄なエネルギーである熱を発生させるため、モータ、発電機、トランスでそれらを最小限に抑えることが不可欠です。Infinitum社がPCBステータの開発を開始したとき、社内の設計ツールによって渦電流損失は126Wであると算出されました。しかし、テストを実行したところ、実際の損失はそれより大幅に高い330Wであることがわかりました。この差を調査するために、エンジニアたちはAnsys Maxwellを導入しました。

彼らは、渦電流が磁気転移に最も近い箇所で生成されることを考慮し、Maxwellを使用して単純化されたステータモデルを解析しました。その際、フルスケールステータの忠実度を損なうことなく、単一の銅コイルの直線撚線と高速で通過する磁石の間の相互作用に着目しました。

Maxwellでのシミュレーションでは、渦電流は主に磁気転移に最も近い中心にある3本のコイル撚線に限定され、コイルと磁石の間の空隙の大きさに影響を受けることが明らかになりました。エンジニアたちは、ステータ内のすべてのコイルのシミュレーション結果を外挿することで、コイル内の隣接する撚線間の近接効果が設計と現実の差につながっていることを明らかにしました。  

エンジニアチームは、PCBステータのモデルとテストの差を解決することで、将来実行するテストの結果がシミュレーション結果に一致するように、社内の設計ツールで使用する閉形式解を調整することができました。

流れに沿って進む

どのモータメーカーも熱伝達、熱損失、冷却などの考慮事項を重視していますが、小型でありながら高出力なモータであれば、それらの影響はさらに重要になります。Infinitum社では、顧客向けにカスタムされた空芯モータの設計を含め、熱マネジメントのシミュレーションにFluentを使用しています。 

Infinitum社は、最近、ある建設および採掘装置の大手企業から、既存の発電機と統合でき、20kVAの電力を供給し、1500回転/分(RPM)で動作する高効率で低重量の空芯交流発電機のプロトタイプを開発するよう依頼されました。

Infinitum社のエンジニアは、社内システムを使用して、プロジェクトの電気要件とインターフェース要件を満たす機械的な事前デザインをモデル化した後、空冷システムの初回設計を改良するためにFluentを使用しました。

同社では、一様なステータ温度と高効率を第一の目標とし、内部空気循環による必要な冷却と、システムから空気を排出するために機械的に駆動されるインペラに要求される流量を達成する設計をカスタマイズすることにしました。また、波形の接触領域を伴う新しく開発されたステータハウジング壁の熱伝導冷却機能も評価しました。これは、均一でより薄い接触領域よりも、熱伝導による一貫した冷却をもたらす設計です。 

Housing stator temperature plot

ハウジング温度プロット(左)とステータ温度プロット(右)

Fluentを使用したシミュレーションでは、カスタマイズプロセスの開始時のステータ全体の温度は許容される低さではあるものの、Infinitum社が以前に開発した放射状の翼列設計に基づくインペラの初期概念では、風損による効率低下が許容範囲を超えることが示されました。翼12枚、外径390mm、深さ42mmのインペラの初回設計では、流量は1分あたり700立方フィート(CFM)になりました。エンジニアが4枚のブレードを除去し、外径を290mm、深さを30mmに縮小してシミュレーションを実行したところ、より効率的な流量である300CFMまで低下しました。この暫定のインペラは、冷却システムの以降の2回の反復設計で使用されました。

ハウジングフィンの配置と量も、このシステムの成功に不可欠であることが実証されました。エンジニアたちがインペラを変更した後も、ステータ温度は想定される限界内に収まっていましたが、交流発電機のハウジングの駆動側と非駆動側の間にはまだ大きな温度差がありました。彼らは、駆動側ハウジングの内部フィンがないことが対称的な冷却を妨げていると結論付けました。ハウジング設計に内部フィンを追加した後に実行されたシミュレーションでは、ステータとハウジングの両方でより低温かつ一様な温度勾配が示されました。

流れの解析結果から、ハウジング壁の波形が熱伝導によってステータの熱の28%を適切に取り除くことが証明されましたが、設計者はさらなる熱放散を促すために、ハウジングの周囲にもフィンを追加しました。この反復により、外部シュラウドのプロファイルはハウジングフィンへの空気流路としての効果がなく、下部にある既存の取り付け部の形状によって、その一部に二次的な気流障害を発生させていることも明らかになりました。さらにシミュレーションを実行した結果、フィンの外形に沿ってシュラウドプロファイルを変更し、取り付け部の形状サイズを小さくすることで、これらの問題が改善されることが確認されました。

内部動力流れのインペラ設計を完成させ、推奨される外部流量を決定するために、同社は、Ansys CFXを使用して、冷却システムの単純化された機械モデルを用いて質量流量要件を解析しました。 

With and without fins

内部フィンなしのハウジング温度(上)と内部フィン付きのハウジング内部温度(下)

この質量流量シミュレーションモデルでは、電気接続の突起部と取り付け部の脚が排除され、既存のシュラウド取り付けの代わりに、数値流体力学(CFD)解析の結果に基づいて変更されたシュラウドで交流発電機ハウジングに空気が送られるようになりました。鋳造ベンダーの仕様に合わせて、ハウジング材料を灰鋳鉄に変更し、フィンの厚さを6mm、基本的な壁の厚さを10mmにそれぞれ設定しました。内部ロータの回転速度を1500RPMに設定した場合、外部流れは100~400CFMで変動し、熱負荷は100~130%で変動しました。    

Infinitum社では、システムインピーダンス曲線とともにステータ温度と外部気流曲線をプロットして外挿することで、設計の最小動作点と推奨動作範囲を決定しました。これらの知見に基づいて、流量が300CFMのインペラが開発され、3Dプリンティングでプロトタイプが作製されました。

最先端のシミュレーションソフトウェアが備えるモデリングおよびテスト機能により、設計者やエンジニアは、物理モデルの操作に長い時間をかける必要がなくなり、コスト面での制約を受けることなく、無限の設計バリエーションを調べることができます。こうした優位性により、Infinitum社はスタートアップ企業ながら市場への参入を成功させました。このことは、デジタルエンジニアリングの価値の証となるでしょう。Infinitum社の事例は、数世代にわたって大きな技術進歩が見られなかった業界で大きな注目を集め、世界で最も困難な問題を解決するための道筋を示すことができるということを示しました。

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